口内炎(読み)コウナイエン(その他表記)stomatitis

翻訳|stomatitis

精選版 日本国語大辞典 「口内炎」の意味・読み・例文・類語

こうない‐えん【口内炎】

  1. 〘 名詞 〙 口腔粘膜の炎症性疾患の総称。口内を不潔にしたためにおきるカタル性のもの(単純性口内炎)や、子どもや体力の弱った成人に現われるアフタ性のもの(潰瘍性口内炎)などがある。口腔炎。口炎。
    1. [初出の実例]「唾液にも排泄される水銀剤は口内炎の原因になり」(出典:薬の効用(1964)〈佐久間昭〉九)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「口内炎」の意味・わかりやすい解説

口内炎
こうないえん
stomatitis

口腔(こうくう)粘膜に現れる炎症をすべて口内炎とよぶ。しかし狭義では、炎症が口腔粘膜の一部に限局しているときには、習慣上、その解剖学的位置に基づいて歯肉炎口唇炎、舌炎、頬(きょう)炎、口蓋(こうがい)炎などとよび、これらの二つ以上が合併しているときに口内炎とよぶ。

[矢﨑正之]

原因と症状

細菌、ウイルス、真菌などの感染によって生じることが多く、口腔が不潔な場合にみられるほか、全身の抵抗力の減弱したときにおこる。また、適合の悪い義歯、酒、たばこ等の機械的、化学的、あるいは温熱的刺激によって生じるものもある。口内炎は、その病像によってカタル性(紅斑(こうはん)性)口内炎、水疱(すいほう)性口内炎、潰瘍(かいよう)性口内炎および壊疽(えそ)性口内炎に分けられる。潰瘍性口内炎の場合、潰瘍の状態により、さらにびらん性口内炎、不定形潰瘍性口内炎、偽膜(ぎまく)性口内炎、壊死(えし)性潰瘍性口内炎、およびアフタ性口内炎などに細分される。口内炎の症状としては、口腔粘膜の発赤、腫脹(しゅちょう)、灼熱(しゃくねつ)感、疼痛(とうつう)および表皮剥脱(はくだつ)、びらん、水疱、潰瘍、壊疽などがみられ、口臭、唾液粘稠(だえきねんちゅう)度の増加がみられる。重症のものでは発熱があり、そしゃく、嚥下(えんげ)の機能障害を伴い、局所リンパ節も腫(は)れる。

[矢﨑正之]

治療

全身的または局所的安静を第一とする。原因を除去し、口腔内の清掃消毒、洗口含嗽(がんそう)剤の投与などを行う。疼痛に対しては局所麻酔剤を塗布する。必要に応じて抗生物質、ステロイド剤、非ステロイド系消炎剤、サルファ剤などを、局所または全身的に投与することもある。全身状態の回復を図るためには、ビタミン剤やブドウ糖液の輸液や輸血を行う。急性炎症が消退したのち、歯石除去や保存不可能な歯の抜去、歯周ポケット(歯と歯肉との間の溝)の除去などを行い、口の中を清潔にすると、口内炎の再発防止に役だつ。治癒後に組織欠損や瘢痕(はんこん)性開口障害がみられる場合には、後日、形成手術を行う。

[矢﨑正之]

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改訂新版 世界大百科事典 「口内炎」の意味・わかりやすい解説

口内炎 (こうないえん)
stomatitis

口腔粘膜に種々の炎症病変がみられる状態をいい,口腔のみの疾患の場合と全身疾患の口腔内症状として現れる場合とがある。病態によって,カタル性,水疱性,潰瘍性,および壊疽(えそ)性に分けられる。

(1)カタル性口内炎 単純性口内炎ともいわれ,粘膜の発赤と腫張,粘液分泌の増加などがみられるもので,口内の熱感,唾液の粘稠化等の症状があり,数日間で自然治癒することが多い。

(2)水疱性口内炎 口腔粘膜に多数の水疱がみられるもので,水疱は短時間で破れて潰瘍となり,潰瘍性口内炎に移行する。天疱瘡の口腔内症状として現れたり,ウイルスの感染によるヘルペスアンギーナや疱疹性口内炎としてみられる。

(3)潰瘍性口内炎 口腔粘膜に潰瘍が形成されているもので,潰瘍の状態によって糜爛(びらん)性,偽膜性,アフタ性などに分けられるが,アフタ性口内炎が最も多い。原因は細菌あるいはウイルスの感染,薬物ないし薬物アレルギー,皮膚科疾患など局所的なものと全身的なものとがある。アフタは,直径1~8mmの輪郭のはっきりした潰瘍で,そのまわりは幅の狭い紅斑で取り囲まれており,潰瘍面には灰白色の偽膜が固く着いていることが多い。アフタの発生状態および数により,アフタ性口内炎,孤立性アフタ,再発性アフタなどと呼ばれている。アフタ性口内炎では,口の中の熱感,飲食物摂取のときの接触痛,嚥下痛などの症状が強く,顎下リンパ節のはれと痛みを伴うことが多い。潰瘍性口内炎の治療は,安静と栄養補給に留意し,多くの種類の細菌に有効な抗生物質を投与し,口腔内を清潔に保ち抗生物質軟膏の塗布あるいは抗生物質トローチの投与を行う。

(4)壊疽性口内炎 歯肉の壊死および腐敗性変化がしだいに周囲に広がり,顎骨も侵されるもので,腐敗性の口臭が強く,壊疽の進むにつれて全身状態も悪くなる。麻疹,腸チフス,猩紅(しようこう)熱,百日咳,肺炎,高熱性疾患の回復期あるいは無カタラーゼ症の場合に細菌の感染によって生じる。治療法は潰瘍性口内炎とほぼ同様である。
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家庭医学館 「口内炎」の解説

こうないえん【口内炎】

 口の中の粘膜(ねんまく)にいろいろな症状が現われる口腔粘膜疾患(こうくうねんまくしっかん)のなかで、比較的広い範囲に病変がおこって、炎症をともなう場合を、口内炎と総称します。
 口腔粘膜が赤くなって食物がしみる程度から、粘膜が浅くただれる、粘膜に盛り上がりができて出血しやすくなる、水ぶくれができる、病変部が偽膜(ぎまく)でおおわれるなど、原因や程度によって症状はさまざまで、多くは痛みをともないます。
 その症状によってカタル性口内炎(「カタル性口内炎」)、アフタ性口内炎(「アフタ性口内炎」)、潰瘍性口内炎(「潰瘍性口内炎」)などに分けられます。
 口の中に原因があっておこる場合と、全身的な病気の症状として口内炎がおこる場合とがありますが、原因がわからない口内炎も少なくありません。

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百科事典マイペディア 「口内炎」の意味・わかりやすい解説

口内炎【こうないえん】

口腔粘膜に起こる炎症。カタル性,アフタ性,潰瘍(かいよう)性などに分けられる。重症では摂食不能になる。治療には局所の洗浄,トローチ,抗生物質や副腎皮質ホルモンを用いる。→アフタ
→関連項目口臭歯肉炎手足口病ビタミン欠乏症

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「口内炎」の意味・わかりやすい解説

口内炎
こうないえん
stomatitis

口腔内粘膜の炎症。口腔内粘膜が発赤,腫脹し,ただれる。痛みがひどく,口臭がある。熱湯,義歯などの物理的刺激,薬品などによる化学的刺激,全身性の疾患などによって起る。カタル性,潰瘍性,アフタ性,壊疽性など,症状によって多くの種類がある。アフタ性は口腔粘膜に直径 2mmぐらいの小型の有痛性潰瘍が多発するもので,最もよくみられる。アレルギーが関係していることも多く,この場合はなおりにくい。ウイルスが原因になる手足口病,ヘルパンギナなども口内炎を起す。原因療法のほか,うがい,洗浄,軟膏の局所塗布などを行うが,決定的な治療法はない。

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