歯根膜炎(読み)しこんまくえんこんせんせいししゅうえん

家庭医学館 「歯根膜炎」の解説

しこんまくえんこんせんせいししゅうえん【歯根膜炎(根尖性歯周炎) Periodontitis】

[どんな病気か]
 歯は歯根膜という約300μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)ほどの薄い座布団のような組織によって、あごの骨とつながっています。
 歯の中にある歯髄(しずい)(神経)が炎症をおこしているうちは、むし歯ないし歯髄炎(しずいえん)と呼ばれ、歯自体の炎症ですが、その炎症がおさまらず、歯根の先端(根尖(こんせん))から炎症が歯の外に出ると、歯周組織、歯根膜に炎症がおこってきます。これが歯根膜炎です。
 また、かみ合わせが高かったりする場合にも、歯根膜炎をおこすことがあります。
[症状]
 急性の場合は、歯の根もとに相当する歯肉(しにく)(歯ぐき)を押すと痛んだり、歯が浮いた感じがしたり、かんだり歯を叩(たた)いたりすると痛むなどの症状があります。
 歯髄炎の症状よりは軽いのがふつうですが、この症状は持続的で、1日の間の変化があまりみられません。
 症状が進むと、あごの下のリンパ節が腫(は)れたり、頭痛がしたりします。
 しかし、慢性化してしまうと、歯が浮く、かむと痛む程度ですみますが、悪い方向に進行すると、骨が破壊されて膿(うみ)の袋(嚢胞(のうほう))ができたり、あるいは膿が歯肉から出てくることもあります(瘻孔(ろうこう))。
 また、歯の根に膿の袋があると、そこから細菌が血液を通って遠方の臓器に運ばれ、リウマチ熱心臓弁膜症急性腎炎(きゅうせいじんえん)などをおこす可能性もあります(歯性病巣感染(しせいびょうそうかんせん))。
 痛くなくても、歯が浮いた感じがしたり、なにか違和感を感じたりしたときには、早めに歯科医を受診することをお勧めします。
[治療]
 原因となっている歯の根をよく消毒し、細菌をなくして歯髄のあった部分の空間を充填(根管充填(こんかんじゅうてん))すれば、その上に金属で土台をつくり、人工的な歯をかぶせることもできます。しかし、膿の袋が大きい場合は、原因となっている歯の根に相当する歯肉を切り、膿の袋を骨の中から取り出したり、最悪の場合は抜歯(ばっし)することもあります。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯根膜炎」の意味・わかりやすい解説

歯根膜炎
しこんまくえん

歯周組織の一つの歯根膜に生じた炎症をいう。歯根膜は、歯を歯槽骨内に保持する薄い組織であるため、炎症がこの薄い組織にだけ限局していることはほとんどなく、歯槽骨炎をも併発していることが多い。したがって、一般には両者を含めて歯周炎(歯周組織炎)とよばれている。この疾患は、歯髄の炎症、壊死(えし)に継発するほか、治療器具による根尖(こんせん)歯周組織への傷害、歯を治療するときの薬剤の副作用等が原因となって生じることが多い。慢性の状態では、歯が浮いた感じ、物をかむときの痛みといった症状があり、急性化すると激しい自発痛がみられ、舌で歯に触れても痛みがおこる状態となる。こうした場合は、歯の安静を保ち、抗生物質投与で急性症状を抑え、自発痛がなくなってから根管治療、または抜歯等の処置を行う。

[吉野英明]

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改訂新版 世界大百科事典 「歯根膜炎」の意味・わかりやすい解説

歯根膜炎 (しこんまくえん)
pericementitis

歯根膜とは,歯とその周囲の歯槽骨との間の狭い空隙にある膜状の軟組織であり,歯を支える歯周組織の一部をなしている。歯根膜炎はこの組織に生じた炎症性変化である。虫歯が原因となって生じた歯髄の炎症ないし壊疽(えそ)が,歯根の先端の小孔を通して周囲の組織を刺激するために生じることが多く,ときには歯の治療薬剤や治療用の器械によって歯根膜が傷害を受けて生じることもある。炎症は歯根膜のみにとどまっていることは少なく,周囲の歯槽骨の炎症を合併して歯周炎となっていることが多い。普通は慢性に経過し,歯が浮く感じ,物をかむときの軽度の痛みを感じる程度である。体の疲労,病気などで全身状態が悪くなると急性化し,歯に触れただけでも激しい痛みを生じ,発熱や局所とリンパ節の腫張を伴う。安静を図るとともに抗生物質を投与して急性症状をなくし,歯髄組織の摘出と根管の消毒を行う。
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百科事典マイペディア 「歯根膜炎」の意味・わかりやすい解説

歯根膜炎【しこんまくえん】

歯根と歯槽(しそう)骨の間にある膜様組織(歯根膜)の炎症。根尖(こんせん)性と辺縁性に区別される。虫歯から歯髄炎を経て起こることが多く,その他,細菌感染,外傷などによる。歯肉炎や歯槽骨炎を合併するのが普通で,まとめて歯周組織炎ないし歯周炎と呼ばれる。リウマチ熱,心臓弁膜症,急性腎炎,化膿性関節炎などをひき起こすこともある。治療は歯髄除去,切開排膿など。
→関連項目歯周組織

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「歯根膜炎」の意味・わかりやすい解説

歯根膜炎
しこんまくえん
periodontitis

歯根の表面と歯槽骨の間にある軟組織,歯根膜に起る炎症。しかし実際には,炎症は歯根膜にのみ限局せずに,歯槽骨,セメント質,歯肉にも及ぶから,これらを一括して歯周炎と呼ぶ傾向にある。う蝕(虫歯)から歯髄炎を経て,感染が根尖孔を通じて歯根膜周辺に広がる場合と,歯周ポケットから辺縁の歯肉に沿って広がる場合とがある。急性の場合には疼痛が激しく,歯が浮く感じがあり,歯肉は赤くはれる。重度の場合には発熱し,膿瘍ができ,リンパ節もはれる。

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栄養・生化学辞典 「歯根膜炎」の解説

歯根膜炎

 歯根膜の炎症.歯周病や齲蝕の症状の一つ.歯垢などが原因で歯肉炎,歯根膜炎と進むことがある.歯髄炎からも起こる.

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世界大百科事典(旧版)内の歯根膜炎の言及

【虫歯】より

…歯髄炎を放置しておくと炎症は歯髄全体に広がり,やがて歯髄は壊死する。そして炎症が根尖部(歯の根の先)に及び,歯根膜炎を起こす。歯の痛みは激しく,歯が浮いて,物がかめない状態が続く。…

※「歯根膜炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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