大地震が起こる前に特別な機器などを用いず、人間の感覚で直接感知される前兆現象のこと。「宏観」は中国語で、「人間の感覚で識別できるさま」をさし、日本語の「巨視的」に該当する。宏観前兆macro-anomaly precursorともよばれる。
古くから、地震が起こる前に「井戸水が涸(か)れた」「地震雲が出た」「犬がおびえていた」などといった言い伝えが世界各地に残っている。日本では1855年(安政2)の安政の大地震の後、鯰絵(なまずえ)が多数出版されたが、これは鯰の行動と地震予知とが関連づけて考えられていたことを示している。1995年(平成7)の阪神・淡路大震災では、マダイの大移動や動物がふらふらしているといった異常行動が確認されており、大阪市立大学名誉教授(当時)の弘原海清(わだつみきよし)(1932―2011)は、震災の前兆現象に関して1519件の証言をまとめ、『前兆証言1519!――阪神淡路大震災1995年1月17日午前5時46分』(東京出版)を出版した。近年では、異質な電磁波が生じた、大気中のイオンやラドンの濃度が変化した、電気製品の故障が増えた、といった多くの報告があるものの、その分析はむずかしく、明確に大地震の前兆現象として関連づけられるような科学的根拠や統計的な裏づけは、いまだなされていない。しかし今日では、地殻に生じた微小な割れ目などから、電磁気や地中のガスなどが漏れ出して、それらをいち早く動物などが感知していることが、異常行動の原因であろうと考える説が有力視されている。
発生が想定されている南海トラフ巨大地震対策に取り組む高知県では、2013年(平成25)から宏観異常現象の情報収集を開始した。しかし、実際の避難勧告の根拠にはしない方針で、県は住民が日常の変化に目を向けるきっかけになり、防災意識を高めることにつなげたいとしている。
[編集部]
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