MHD発電(読み)エムエッチディーハツデン(その他表記)magnetohydrodinamic generation of electricity

デジタル大辞泉 「MHD発電」の意味・読み・例文・類語

エムエッチディー‐はつでん【MHD発電】

MHDmagnetohydrodynamics》⇒電磁流体発電

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改訂新版 世界大百科事典 「MHD発電」の意味・わかりやすい解説

MHD発電 (エムエッチディーはつでん)
magnetohydrodinamic generation of electricity

電磁流体力学(略称MHD)を応用した発電の方式で,電磁流体発電ともいう。導電性を有する燃焼ガスを磁界を横切って流し,そこから電気を取り出す発電方式。これは在来型火力発電の前置段として用いられ,両者で複合サイクルを構成することによって総合熱効率50~55%(在来火力は40%程度)が達成されるものと期待され,ソ連,アメリカにおいて大規模な試験プラントが建設され,また日本においても通産省のプロジェクトの一環として基礎研究が続けられている。MHD発電の原理は以下のようなものである。

 まず通常の石油,石炭,天然ガスなどを燃焼して3000℃程度の高温を得る。この燃焼ガス中にカリウムなどのアルカリ金属を微量混入(シード)すると,その一部が電離してガスが導電性を帯びる。次にこのガスをノズルから噴出させて1km/s程度に加速して,発電チャンネルに導く。発電チャンネルには,対向する2面に金属性電極が取り付けられ,外部からは流路と直交するような磁界が加わっている。そこで,導電性のガスはこの磁界を横切って流れることになるから,電磁誘導の法則によって直交方向に起電力が生じ,側面の電極を通して直流電力が外部へ取り出せることになる。これを電力系統へ接続するには,直流-交流変換器が必要である。ところで,発電チャンネルを通過したガスはまだ2000℃という高温にあるので,この熱を熱交換器によって回収し,高温・高圧水蒸気を発生させて在来型火力発電を行わせる。当然,熱交換器を通過する際にはシード用カリウムを回収する必要がある。

 MHD発電の開発は,在来火力発電の効率改善を目的としているが,その実現に際し解決すべき技術的課題には次のようなものがあげられる。(1)発電チャンネルに加える磁界は4~6Tであり,その発生には特殊形状の超電導磁石を必要とする。(2)発電チャンネルの内壁および電極は高い温度になるから,それに耐える材料を開発する必要がある。(3)MHD発電部と在来火力発電部との間に置かれる熱交換器として,高耐熱用のものを開発する必要がある。

 アメリカにおけるMHD発電の開発は,膨大な埋蔵量を有する石炭資源の有効利用を目的とし,石炭の直接燃焼発電用として位置づけられている。石炭燃焼ガスを用いる場合,大量のスラグを回収する必要がある一方,スラグが高温溶融状態となって電極表面を覆い,その消耗を抑えるという効果が知られている。

 以上,説明した燃焼型とは異なるMHD発電方式の提案もなされている。一つは溶融(液体)金属を用いる方式,他はヘリウムなどの希ガスを用いる方式で,いずれも燃焼型とは異なって作動流体は閉じた熱ループを構成するので,〈閉ループ方式MHD発電〉と呼ばれている。この方式は将来の高温原子炉などを熱源とした高効率発電方式として期待されている。また,電荷を帯びた粒子を気体,または液体の流れによって運び,電位差を生じさせる電気流体発電electrofluid dynamic generation of electricity(略してEFD発電)が提案されている。MHD発電に比べて高温を必要としないという利点はあるが,研究は学術的レベルにとどまる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「MHD発電」の意味・わかりやすい解説

MHD発電
えむえいちでぃーはつでん

磁気流体発電のことで、電気伝導性をもつ流体を磁界に垂直な方向に流し、電磁誘導によって生じる起電力を利用する発電法。MHDは磁気流体力学magnetohydrodynamicsの略。

 磁界の中で導体を運動させれば、磁束の変化によって導体に起電力が生じ、電流が発生する。この導体は、通常の発電機では銅線であるが、導体でありさえすれば、液体でも気体でもよい。気体の温度が2000~3000℃になれば、気体の原子から電子が飛び出し、プラズマ(高度に電離し、イオンと電子が一様に分布した状態)となり、気体は導電性を帯びる。とくに電離しやすいセシウムやカリウムを混ぜれば、電気伝導度はいっそう高くなる。プラズマが磁界の中を通過すれば、磁束の変化によって、磁界と垂直に、かつプラズマの運動方向とも垂直な方向に誘導起電力が生じる。プラズマの両わきに電極を置けば、そこに電荷がたまり、電極を導線でつなげば、導線中に電流が流れる。プラズマの温度がいかに高いとはいえ、その電気伝導度は銅などに比べたら桁(けた)違いに小さい。電気伝導度の低さを補うためには、磁束密度やプラズマの流速を思いきって高めることが必要である。そのため、強力な電磁石と秒速数百~1000メートルを超える流速が、MHD発電の欠くことのできない条件である。通常の電磁石では消費電力が大きいので、超電導磁石が不可欠である。MHD発電の熱源は、高温ガス冷却炉のような原子炉に求められるべきである。

[桜井 淳]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「MHD発電」の意味・わかりやすい解説

MHD発電
エムエイチディーはつでん
magnetohydrodynamics power generation

電磁流体力学を応用した発電法。従来の発電機の固体の導電体の代りに,高温で電離状態になった導電性の気体であるプラズマをダクトに流して直角に磁界を加え,そのいずれにも直角方向に起電力を発生させる方法。磁界の中に高温プラズマを通し,直接に電磁的に電気を得るので,熱電子発電,熱電発電などとともに直接発電の一分野とされる。研究開発中の発電方式なのでいろいろな方法や可能性があるが,いまのところ電磁界内に高温高速の導電性ジェット流を通過させ,これと平行に設けた対向電極の間に直接に電気を発生させる方式が研究されている。直接に発電するため熱効率が高く,同時に磁界を通過したあと高温の排ガスを火力発電機の蒸気タービンに誘導して火力発電をすると全体の熱効率は著しく上がる。両者を合せた総合熱効率は従来の火力発電より5割以上高い 50%程度といわれている。将来の発電方式として研究,開発が盛んである。高温ガスの電離を促すための添加剤や使用するガスや燃料,またガスの通路の材質,冷却技術など多くのむずかしい課題をかかえている。発電機の形式としては,ファラデー型,ホール型,ダイアゴナル型がある。アメリカ,日本,ロシアなどで開発が進められている。

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百科事典マイペディア 「MHD発電」の意味・わかりやすい解説

MHD発電【エムエッチディーはつでん】

電磁流体発電とも。MHDはmagnetohydrodynamicsの略。高温高速の導電性流体を強い磁界の中で走らせ,このとき生じる起電力を利用する直接発電。流体としてプラズマや溶融金属が用いられ,効率のよい大出力の発電方式として将来を期待されている。なお,発電出力としては直流であるので,商用電力としては交流に変換する必要がある。
→関連項目超電導材料電磁流体力学発電

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知恵蔵 「MHD発電」の解説

MHD発電

強力な磁石の間に高温ガス・プラズマを通過させて電極から電流を取り出す発電方式。ファラデーの電磁誘導の法則の直接的応用。燃焼ガスの運動エネルギーを直接電力に変換するので効率が高く、排出ガスで蒸気タービンを回すことで総合効率50%以上を望める。燃焼ガスを導電化するには、シード物質としてカリウムなどを添加する。問題点は、電極の耐久性。日本語では電磁流体力学発電という。

(槌屋治紀 システム技術研究所所長 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内のMHD発電の言及

【直接発電】より

…すなわち,通常の火力発電においては,石油,石炭,あるいは天然ガスの燃焼によって得られる高温熱エネルギーを,いったんタービンの機械的回転エネルギーに変換し,その後,電気エネルギーへ変換するという過程をとっている。しかし,例えばMHD発電をとり上げてみると,そこではタービンの代りに磁界が加わった発電チャンネルがあって,直接熱エネルギーは電気エネルギーへと変換されるから,これは直接発電の一つとみなされる。直接発電の一つの特徴は,原理的に高熱効率の発電を可能にすることにある。…

※「MHD発電」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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