核分裂で生じた熱の冷却材にヘリウムガスを用いる原子炉で、炉心溶融や水素爆発が起きないとされる。日本原子力研究開発機構は、茨城県大洗町に高温ガス炉の研究炉にあたる高温工学試験研究炉(HTTR)を建設、98年初臨界。高温の熱を取り出して燃料電池車に使う水素をつくる研究が計画されている。東京電力福島第1原発事故時は定期検査中で停止していた。原子力規制委員会による新規制基準審査が続いている。
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黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉のこと。英文のつづりHigh-Temperature Gas-cooled Reactorの頭文字をとってHTGRともいう。日本では、日本原子力研究開発機構により開発が進められている。また、日本、アメリカなど十数か国の国際協力による「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF=GenerationⅣ International Forum)」では、研究・開発課題の一つとして超高温ガス炉(VHTR=Very High Temperature Reactor)が選定されている。
冷却材温度を700~1000℃に上げ、原子力の多目的利用を図るとともに、熱効率を高める。安全性に優れた発電用原子炉である。炉心は、中性子減速材の黒鉛と、高密度炭素と炭化ケイ素で被覆した燃料粒子で構成されるため、熱衝撃に強く、特有の安全性を示す。すでに停止されたが、アメリカのフォートセントブレイン原発は、電気出力34.2万キロワット、炉心出口温度812℃、熱効率38.5%の高温ガス炉であった。この原子炉のヘリウムガスを15分間停止させても、炉心や燃料にはなんら異状が生じなかった。軽水炉の場合、冷却材喪失事故が起こり、緊急炉心冷却に失敗すると、燃料被覆管の温度は2分以内で1650℃に上昇し、被覆管の破損を引き起こすが、高温ガス炉の場合には、黒鉛が熱を吸収するので、少なくとも1時間経過しないと1650℃には達しない。黒鉛炉心に損傷を与える温度は約2200℃であるが、10時間経過してもこの温度には到達しない。
アメリカ原子力規制委員会は、スリー・マイル島原発事故(1979)後、原発に専門家をフルタイムで常駐させることを要求しているが、フォートセントブレイン原発にはこの規制は適用されていなかった。高温ガス炉は安全性の高い、十分に余裕のある原子炉である。
南アフリカ共和国では、ドイツの技術により、高温ガス炉を利用した小型原発が建設中である。世界の原子力発電の流れのなかで、また、福島第一原子力発電所事故の影響下で、高温ガス炉が、将来どのように発展するかは未知数である。
[桜井 淳]
略称HTGR。高温ガス冷却炉ともいう。冷却材に不活性気体であるヘリウムを用いて,とくに高い冷却材出口温度(たとえば700℃以上)を実現できるよう設計された原子炉。減速材としては黒鉛が使われている。燃料にはカーネル(核)と呼ばれるU,ThあるいはPuの酸化物または炭化物の細粒(直径200~800μm)を熱分解炭素で幾重にも被覆した被覆燃料粒子が使われる。炉心構成法には,六角形の断面をもつプリズム状黒鉛ブロックにあけられた多数の穴の中にこの燃料粒を入れて燃料体とし,これの集合として炉心を構成する方式と,球状の黒鉛マトリックスの中にこの燃料細粒を分散させてつくった燃料球を黒鉛タンクの中に積み上げたいわゆるペブルベッド炉心とする方式とがある。高温ガス炉の実用化のためには大型化と経済性の追求が必要であるが,軽水炉の安定的な実用化の展開の前に開発テンポは遅れ気味である。
日本ではこれを多目的高温ガス炉として開発する計画が進められている。この計画では冷却材ガス出口温度を950~1000℃とし,この高温ガスを製鉄や水の熱分解による水素製造などの工業プロセスの熱源として使う計画であり,このための実験炉HTTR(高温工学試験研究炉)が1998年に茨城県東茨城郡大洗町に建設された。
→原子炉
執筆者:近藤 駿介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
略称HTGR.高温ガス冷却炉ともいう.基本的には黒鉛を減速材,ヘリウムガスを冷却材に使用する熱中性子利用の原子炉.熱分解炭素,炭化ケイ素,黒鉛で被覆した燃料を用いるので,800 ℃ 以上の高温運転が可能である.燃料として,外径0.5~1 mm の粒子を外径6 cm の黒鉛球内に分散させたタイプ,または棒状のものが用いられている.燃料素子の耐熱性(3000 ℃)が高いのでメルトダウンは起こらず,核分裂生成物が閉じこめられるので安全性が高い.発電にはガスタービンを用い,軽水炉よりはるかに高温であるから熱効率が高い.高温による製鉄,水の熱分解による水素製造,石油化学工業用,海水淡水化,地域暖房用熱源など,広範囲の利用が考えられている.イギリス,ドイツ,アメリカで実験炉,原型炉まで開発が進められたが,いずれも1980年代までに所期の目的を達成したとして運転を終了している.わが国では,日本原子力研究所(大洗研究所)に高温工学試験研究炉(HTTR)30 MW が1998年から,中国でも清華大学にHT-10(10 MW)が2000年から運転を開始している.HTTRは2004年に出口温度950 ℃ を記録した.南アフリカ共和国では,ドイツのプロジェクトを引き継ぐかたちでモジュラー化した小型の黒鉛被覆燃料・He冷却の商業炉PBMR(Pebble Bed Modular Reactor)の建設計画が進められている.使用済み燃料は再処理しないワンス-スルー方式が考えられており,建設費用が低くてすみ,経済性にすぐれている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(渥美好司 朝日新聞記者 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…高温ガス炉ガス冷却炉のうち,冷却材出口温度が高いもの。英語のhigh temperature gas‐cooled reactorを略してHTGRということもある。特にこの名称を用いるべき温度条件は定まっていないが,出口温度が700℃以上でヘリウム冷却である原子炉をいうことが多い。…
…熱源として対応できる主要な原子炉の型式も同図に示してある。 高温ガス炉では高温のヘリウムガスで炉心から熱を取り出す。この熱は高温熱交換器を介して利用側に伝えられ,必要に応じて蒸気発生器に導かれ,プロセス用蒸気や発電用の蒸気がつくられる。…
…アメリカで建設されたフォート・セント・ブレイン炉では,冷却材入口温度が338℃,出口温度が761℃,その圧力は約50気圧となっている。このような原子炉を高温ガス炉と呼ぶ。高温ガス炉の炉心には上に述べたプリズム柱状の燃料要素を用いる方式以外に,多数の上述の黒鉛被覆粒子を黒鉛で直径5cm程度の球に成形したものを黒鉛容器にたくさん入れて炉心とするペブルベッド方式もある。…
※「高温ガス炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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