高温ガス炉(読み)こうおんがすろ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「高温ガス炉」の意味・わかりやすい解説

高温ガス炉
こうおんがすろ

黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉のこと。英文のつづりHigh-Temperature Gas-cooled Reactorの頭文字をとってHTGRともいう。日本では、日本原子力研究開発機構により開発が進められている。また、日本、アメリカなど十数か国の国際協力による「第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF=GenerationⅣ International Forum)」では、研究・開発課題の一つとして超高温ガス炉(VHTR=Very High Temperature Reactor)が選定されている。

 冷却材温度を700~1000℃に上げ、原子力の多目的利用を図るとともに、熱効率を高める。安全性に優れた発電用原子炉である。炉心は、中性子減速材の黒鉛と、高密度炭素と炭化ケイ素で被覆した燃料粒子で構成されるため、熱衝撃に強く、特有の安全性を示す。すでに停止されたが、アメリカのフォートセントブレイン原発は、電気出力34.2万キロワット、炉心出口温度812℃、熱効率38.5%の高温ガス炉であった。この原子炉のヘリウムガスを15分間停止させても、炉心や燃料にはなんら異状が生じなかった。軽水炉の場合、冷却材喪失事故が起こり、緊急炉心冷却に失敗すると、燃料被覆管の温度は2分以内で1650℃に上昇し、被覆管の破損を引き起こすが、高温ガス炉の場合には、黒鉛が熱を吸収するので、少なくとも1時間経過しないと1650℃には達しない。黒鉛炉心に損傷を与える温度は約2200℃であるが、10時間経過してもこの温度には到達しない。

 アメリカ原子力規制委員会は、スリー・マイル島原発事故(1979)後、原発に専門家をフルタイムで常駐させることを要求しているが、フォートセントブレイン原発にはこの規制は適用されていなかった。高温ガス炉は安全性の高い、十分に余裕のある原子炉である。

 南アフリカ共和国では、ドイツの技術により、高温ガス炉を利用した小型原発が建設中である。世界の原子力発電の流れのなかで、また、福島第一原子力発電所事故の影響下で、高温ガス炉が、将来どのように発展するかは未知数である。

桜井 淳]


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