電磁場(電磁界)と相互作用する流体の力学から出発し、水銀や溶融ナトリウムのような液体金属や、電離気体であるプラズマのように、電気の良導体からなる流体が磁場(磁界)中を流れるときの特異な運動と、それに伴う複雑な電磁気現象を取り扱う物理学の一分野。電磁流体力学ともいうが、高周波現象を除外すると、流速・密度・圧力・磁場を求める問題に還元され、応用面ではそのような場合が多いので、磁気流体力学という用語が定着した。MHDと略称する。
宇宙空間に存在するプラズマでは、その運動の空間的および時間的スケールが大きく、かつ希薄なため電気伝導度も大きい。したがって磁場と流れの相互作用の効果が著しく現れるため、まず初めに磁気流体力学の研究対象として取り上げられた。とくに、1942年アルベーンが、磁場中を流れるプラズマの中を磁場の横波(アルベーン波)が伝播(でんぱ)することを発見し、体系的な磁気流体力学を建設する基礎をつくった。アルベーンはこの理論を用いて、太陽黒点の発生と構造の解明を行った。それ以来天体プラズマ現象の研究には磁気流体力学の知識が不可欠となっている。
第二次世界大戦が終わると、水爆の原理である核融合反応のエネルギーを平和利用に向けるための制御熱核融合の研究が開始された。太陽や星のエネルギー源である熱核融合反応を地上で実現するため、超高温のプラズマを直接に固体容器の壁に触れないように、磁場によって閉じ込める研究が盛んになったが、このため磁場中での高温プラズマのふるまいを取り扱う磁気流体力学が飛躍的に進歩した。プラズマに磁場を加えると磁力線が浸透し、磁場による圧力が加わる。この磁場の圧力と高温プラズマの圧力とがつり合えば、プラズマは力学的な平衡状態となり閉じ込められるが、この平衡状態が不安定であれば、プラズマ中に発生したわずかの乱れがたちまち成長して、プラズマは磁場の壁から流出してしまう。これは磁気流体力学的不安定性とよばれ、詳しい研究がなされた。その結果、現在では、磁場を利用する核融合装置は、第一にプラズマを磁気流体力学的に安定に閉じ込めることが必要条件とされ、そのための磁場の配位の研究が進められた。とくにそのなかでトカマク型装置は、現在もっとも熱核融合の条件に近い超高温プラズマを生成して閉じ込めることに成功し、ヘリカル巻線を外部にもつ装置がそれに次いでいる。
磁気流体力学の他の分野としては、MHD発電への応用や、磁場のもとでの溶融金属による冷却の際の圧力評価などがある。
[宮原 昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…電磁場が流体の運動に及ぼす影響を議論する学問。日本では,電気伝導性の流体に対する磁場の影響を論ずる磁気流体力学magnetohydrodynamics(略称MHD)を指すことが多い。一般に水銀や溶融金属,あるいは電離気体(プラズマ)が磁場の中を運動すると起電力が発生し,そのために電流が流れて(誘導)磁場を生じ,その結果磁場を変えるとともに電流に磁場が及ぼす力のために運動が影響される。…
※「磁気流体力学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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