電磁場が流体の運動に及ぼす影響を議論する学問。日本では,電気伝導性の流体に対する磁場の影響を論ずる磁気流体力学magnetohydrodynamics(略称MHD)を指すことが多い。一般に水銀や溶融金属,あるいは電離気体(プラズマ)が磁場の中を運動すると起電力が発生し,そのために電流が流れて(誘導)磁場を生じ,その結果磁場を変えるとともに電流に磁場が及ぼす力のために運動が影響される。
電磁流体力学の萌芽は,鉛直磁場の下で鉛直な電線からの放射電磁場があるとまわりの水銀が回転するという電磁回転や,1937年J.ハルトマンによる垂直な磁場のかかった溝の中の流れ(ハルトマンの流れ)の研究に見られる。とくに後者は電流の流れる流体に垂直な磁場を加えて管に沿う方向の動力を得,管に沿って液体を流そうとする電磁ポンプやさらに進んで電磁推進の基本となるものである。また逆に流れと磁場に垂直に生ずる起電力の測定は電磁流量計やMHD発電に結びつくものである。しかし,磁気流体力学的効果がもっとも顕著に現れるのは,流れの電気伝導度σや流速U,スケール(代表長さL)が大きくて,いわゆる磁気レーノルズ数Rm=σμVL(μは透磁率)が大きい場合である。このときは磁場と液体の結合が大きく,磁場は流体に凍りついたようにこれとともに運動するとみなすことができる。このとき流体の密度をρとすると,磁束密度Bの磁場に沿って, の速度で伝搬する横波(アルフェン波)の存在しうることがスウェーデンのアルフェンHannes Alfvén(1908-95)によって指摘され(1942),多くの実験によって確認されている。流体が圧縮性をもつときは音波との干渉が生じ,純アルフェン波のほかに磁場と伝搬方向のなす角によって伝搬速度の異なる異方性の2種の磁気音波の存在することが知られている。また以上の3種の波に対応して,一様な磁場のかかった物体を過ぎる定常流では前傾の定常波や衝撃波が存在するし,それに沿って磁場の不連続の可能性もある。電気抵抗や粘性の影響の下にアルフェン波は流されて拡散し,いわゆるMHD伴流を生む。
磁気流体力学はアルフェンによる太陽黒点の理論に始まり,地球や太陽などの天体の磁気の生成・維持,変動を論ずる流体磁気ダイナモ理論,宇宙電波の起源などの天体物理学,地球物理学などに関連して発展した。プラズマを磁場によって閉じこめ,さらに圧縮して密度,温度を高めて核融合反応を行わせるプラズマの制御や,前述のMHD発電,推進など工学的にも広い応用をもっている。
電磁流体力学の基礎方程式としては,ローレンツ力や電磁誘導起電力で連関した液体に対する運動方程式と,電磁場に対するマクスウェルの方程式を論ずる必要がある。しかし,電気的に中性で高周波や相対論的効果が無視できる場合には,後者は電流に対するオームの法則を用いることによって磁場の変化を支配する誘導方程式に帰着され,また前者のローレンツ力は磁場だけによるものとなる。
執筆者:橋本 英典
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…このような理想的な100%電離気体をとくにプラズマと呼ぶことも多く,その物性,とくに電磁界との相互作用を研究する物理学の新しい分野としてプラズマ物理学が生まれ,最近とくに急速に発展しつつある。プラズマ物理学の中でも,とくにそれを電気的なふるまいを示す流体としての特徴を重視して研究する分野を電磁流体力学(MHDとも略称される)と呼んでいる。
【プラズマ研究の歴史】
プラズマ研究の歴史を顧みると,前述のラングミュア以来主として放電物理という立場から弱電離プラズマの基本的性質が調べられた。…
※「電磁流体力学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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