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VTOL機 ブイトールキ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

VTOL機
ぶいとーるき

垂直離着陸機vertical take-off and landing aircraftの略称。離着陸の際にまったく地上滑走をしないで離昇または降下し、巡航中は固定した翼によって揚力を得る航空機。垂直離着陸は飛行機の発達過程で理想とされていた。つまりVTOL機が実用化されれば、通常型の飛行機の性能向上や大型化に伴ってますます長くなる滑走路を不要にし、飛行場の設置や運航面の制約を飛躍的に緩和することができ、航空機の利用価値をさらに高めることができる。現在広く利用されているヘリコプターは、垂直に離着陸する点ではVTOL機の一種ともみなせるが、巡航状態がまったく異なるのでVTOL機として扱わないのが普通である。
 VTOL機は垂直離着陸特性に加え、ヘリコプターの欠点とされている速度の限界を解消するために開発されたもので、小型・軽量のわりに出力の大きいタービンエンジンの実用化に伴い、現在、さまざまな型式のVTOL機が考案され、実用化の研究が続けられている。しかし、経済性や騒音などの関係で軍用目的が多く、民間用の輸送型VTOL機の開発には至っていない。いまのところ実用化されたVTOL機は、イギリスのBAe社(元ホーカー・シドレー社)が開発したハリアー戦闘・攻撃機だけで、フランス、ロシア、ドイツ、アメリカなどではまだ実験段階にある。VTOL機が垂直に離昇・降下するには、機体の全重量と全推力との比が4対3以上ある必要があるが、その推力を得る方法を大別すると次のようになる。
〔1〕飛行機の姿勢を変える方式。機体は地面に垂直のまま離昇し、だんだんに機体を水平に戻して、巡航中は普通の飛行機と同じように飛行する。着陸のときには逆に水平姿勢から垂直姿勢に戻し、機首を上にして着陸する。
〔2〕上昇用の回転翼を離陸後に進行方向に傾け、水平飛行中はプロペラとして使う型式。機体は離陸時も巡航中も水平のままである。この型式をコンバーチブル・プレーン(転換式航空機)という。
〔3〕ジェットエンジン自体、またはジェット排気ノズルを、離着陸時には下向きにしておくが、巡航中は進行方向に傾けて水平飛行中の推力を得る型式。原理的には〔2〕と同じ。推力転換型という。前記のハリアー機は、このうちの排気ノズル回転型である。旧西ドイツではエンジン回転型の実験機を製作したが、実用性ではノズル回転型のほうが優れている。
〔4〕ジェットエンジンの排気ガスまたはプロペラの後流を、主翼の後縁に取り付けたフラップまたは偏向板で下向きに偏向させ、その反動やコアンダー効果を利用して揚力を得る型式。後流偏向型ともいう。むしろSTOL(エストール)(短滑走離着陸)機向きで、STOL機では成功している。
〔5〕垂直飛行用と推進用の両方のエンジンを備え、飛行状態によって使い分ける型式。複合推進型ともいう。上昇用エンジンを胴体または翼端のポッド内に収める型式や、翼の中に直径の大きいファンを取り付け、ジェット排気のかわりにファン後流を利用する型式、垂直飛行には回転翼を使用し、水平飛行時には回転翼を折り畳んで固定翼で揚力を得る型式、停止させた回転翼に揚力を生じさせるX翼機型式などが考えられている。
 VTOL機の開発には、(1)垂直飛行から水平飛行、またはその逆の転換時の安定性や操作、(2)垂直飛行中または空中停止時の安定性、(3)垂直飛行中のエンジン故障時の対策、などの問題がある。さらに、機体に比べて大出力のエンジンが必要なこと、安定性を保つための装備を必要とすることなどで、機体構造が複雑になり、機体の価格が高くなり、経済性が悪いことや、騒音の大きいことがそれに加わってくる。したがって、いまのところごく特殊な用途に用いられる軍用機以外には、実用化される可能性は少ないとみられている。[落合一夫]

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

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