主翼(読み)シュヨク(その他表記)main wing

デジタル大辞泉 「主翼」の意味・読み・例文・類語

しゅ‐よく【主翼】

航空機の翼のうち、全重量を支える揚力を発生させる大きな翼。
[類語]つばさ尾翼両翼銀翼回転翼

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精選版 日本国語大辞典 「主翼」の意味・読み・例文・類語

しゅ‐よく【主翼】

  1. 〘 名詞 〙 空中で、飛行機の全重量をささえ、それに相当する揚力をもつ翼。通常は飛行機の重心位置付近にある。
    1. [初出の実例]「主翼をぐっと張り、大きな一枚尾翼。B29だ」(出典:春の城(1952)〈阿川弘之〉三)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「主翼」の意味・わかりやすい解説

主翼
しゅよく
main wing

固定翼の航空機の翼のうち、その面上に空気力学的な力(揚力)を生じさせ、機体を空中に浮き上がらせる働きをもった翼。揚力を発生するために適した断面(翼型airfoil, wing section)をもち、航空機の使用目的や設計目標速度によっていろいろな形状がある。翼は比較的効率のよい機構で、揚力に対してその10分の1以下の力で翼を空気中に押し進めてやれば、機体を浮き上がらせるのに十分な揚力を得ることができる。揚力は航空機の速度の2乗と翼面積などに比例して大きくなり、また翼型の基準線と気流に対する角度(迎え角)が大きくなるほど増大する。しかし、迎え角をあまりに大きくしすぎると、翼上面の圧力変化が大きくなって気流は翼面に沿って流れることができず、翼面からはがれてしまい、揚力は急激に減少する。この現象を「失速stall」という。

[落合一夫]

翼の構造

翼は桁(けた)spar、小骨(こぼね)rib、縦通材(じゅうつうざい)stringer、外板(がいはん)skinによって構成される。桁は主として揚力による曲げの力(荷重)を受け、小骨や縦通材は翼型を正しく保ち、外板は翼の表面を覆うとともに曲げやねじれの荷重の一部を受け持っている。初期の飛行機では木材や竹、布などが使われ、曲げやねじれに対しては、2枚の翼を上下に配置して支柱針金で結合し、トラスを構成することで強度を保つ複葉型がおもであった。しかし、現代は材料のほとんどがアルミ合金となり、構造および翼型の研究が進んで、1枚の翼ですべての荷重に耐えられる単葉型になった。最近の翼は構造が頑丈で厚いわりに空気抵抗が少なく、また内部に燃料タンクや着陸装置を収めるなど、スペースを有効に利用している。複葉・単葉以外に飛行機の発達過程において三葉・多葉型もつくられたが、ごく少数で終わった。

[落合一夫]

翼の配置

翼の数のほか、単葉機胴体に対する翼の配置によっても種類がある。胴体の上方に翼を取り付けた配置を高翼(こうよく)または肩翼(かたよく)、胴体のほぼ中央部を貫通した配置を中翼(ちゅうよく)、胴体の下側に取り付けた配置を低翼(ていよく)というが、現在では高翼型と低翼型が広く用いられている。ほかに胴体の上方に支柱などで高く翼を支持するパラソル型もあるが、ほとんど使われていない。

[落合一夫]

翼の形

平面形は普通、長方形か台形(テーパー翼tapered wing)となっているが、高速度の飛行機では翼端が取り付け部より後方にある後退翼sweep back wingが多く使われており、さらに超音速の飛行機では三角翼delta wingが用いられる。また高速飛行特性はよいが低速特性の悪い後退翼の欠点を補うため、飛行中に任意に後退角が変えられる可変後退翼variable geometry wingも一部で使用されており、後退角も左右両翼を同時に変更できるもののほかに、高速飛行時は胴体に設けた回転軸を中心にして翼を回転させ、一方に後退角、もう一方に前進角を与える斜め翼slew wingなども研究されている。また、翼端が取り付け部より前方にある前進翼は、後退翼と同じように高速飛行特性がよく、大きな迎え角のときも翼端失速をおこすことがなく、機体の寸法を小さくできる特徴があるが、これまでの金属材料ではねじり荷重に対する強度が得られず採用はむずかしかった。最近では複合材料の発達により強度も安定してきたため、実用化を目ざしてテストが行われている。後退翼ではない通常の翼(長方形翼、台形翼など。直線翼ともいう)では、航空機の使用目的に応じ、たとえば長距離飛行または離着陸性能を重視する航空機では細長い翼(縦横比aspect ratioが大きい翼)が、また運動性を重視する航空機では太く短い翼(縦横比が小さい翼)が用いられる。このほか、翼幅方向の圧力分布が理想的といわれる楕円(だえん)形の平面の翼も一部で用いられたが、設計や工作に手間がかかるため現在ではほとんど用いられない。

 主翼の断面形つまり翼型はその航空機の性能や飛行特性に基づいて用いられるが、以前は定評のある既製の翼型が選ばれた。しかし、現在ではコンピュータの発達により、その航空機の設計目標にもっとも適した性能が得られるよう、そのつど翼型を計算して用いることが多い。

[落合一夫]

翼の補助装置

翼はまた飛行機の性能に直接関係するが、高速度の巡航中と低速度での離着陸に対し、どちらにも適合する特性はもたせられず、高速飛行に適した翼面積をまず決定し、低速飛行に対しては不足する揚力を補うための高揚力装置high-lift device(フラップおよびスロットなど)を装備するのが普通である。また、ジェット機は空気抵抗が少ないため、速度や高度を調整するために揚力を減じ、逆に抵抗を増大させる装置(スポイラー、スピードブレーキ)は不可欠の装備となる。また、航空機に横の傾きを与えたり、修正したりするため、翼上面にフライトスポイラーflight spoilerや、翼端付近の後縁部に補助翼aileronを取り付けている。

[落合一夫]


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改訂新版 世界大百科事典 「主翼」の意味・わかりやすい解説

主翼 (しゅよく)

(よく)

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百科事典マイペディア 「主翼」の意味・わかりやすい解説

主翼【しゅよく】

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世界大百科事典(旧版)内の主翼の言及

【翼】より


【翼の分類と特徴】
 飛行機の翼は,その役割,胴体との位置関係,数,平面形などによってさまざまに分類される。
[前後位置による分類]
 主翼main wingは機の重心付近に設けられ,飛行中に機の重量を支えるための揚力の発生がおもな目的で,横安定を保つ働きもある。単に翼といえばこの主翼を指す。…

※「主翼」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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