日本大百科全書(ニッポニカ) 「Web2.0」の意味・わかりやすい解説
Web2.0
うぇぶにーてんぜろ
インターネットではWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)の仕組みを使ってさまざまなサービスが行われているが、従来のサービスとは異なる新しい技術的、仕組み的な要素が含まれているサービスを、そのコンセプト(概念)を象徴的に表すためのことばとしてWeb2.0が使われている。2005年後半くらいから、インターネットのサービスの形がさまざまな側面で変化をしたこと、つまり進化してきたことを象徴的に表すために、従来のものを「Web1.0」とよび、新しい概念を「Web2.0」とよぶ。この名称を考え、広めたのはアメリカでコンピュータ関連の書籍などを出版するメディア企業のオライリー・メディア社の創業者で社長のオライリーTim O'Reilly(1954― )である。
新しい要素とは技術的・仕組み的なもの、ビジネスモデル的なもの、マーケティング的なものなどさまざまな側面で複数の要素があり、いずれかが含まれていれば「Web2.0的である」という言い方をする。
従来、WWWを使って行われてきたインターネットのサービスは事業者がつくりだした情報を自らのサーバーコンピュータに蓄積し、それを表示できるようにするという仕組みだった。静的につくり込まれたページはもちろんのこと、データベースで動的に変化するようにつくられたページもそういう意味では本質的な相違はない。
一方で、Web2.0での象徴的な要素は、ユーザーが他のユーザーに読まれるためにコンテンツやデータをつくりだし、それをウェブサーバーに蓄積するものである。そして、サーバー側では蓄積したコンテンツを表示する仕組み(検索する機能なども含む)だけを保持し、一度仕組みができあがれば、あとはコンテンツが次々と拡大するというものである。
このように仕組みとコンテンツ(データ)を分離することで、特定の事業者やユーザーがデータと仕組みの両方をもっていなくても、相互に連携して、次々と情報を増やしていったり、新しいサービスのなかに他のサービスを組み込んだりすることができるようになる。つまり、コンテンツやサービスもネットワーク指向の仕組みに組み込まれたといえる。たとえば、地図サイトは地図上にポイントする店舗の名称などのデータをもたなくても、地図をもたずに住所情報だけをもつような事業者が公開されているアプリケーション・プログラミングインターフェイス(API)を使って地図データを使えるようになる。実際に、グーグル社Google,Inc.のグーグル・マップのAPIが公開され、さまざまな派生したサービスが実施されている。
また、ユーザー同士で情報を共有する場合も、従来のポータルサイトのディレクトリ構成は事業者が決めた恣意(しい)的なルールで分類したり、整理したりしたものであるが、Web2.0ではユーザーがインデックス(索引)やタグ(付箋(ふせん)機能)をつけて分類していく。こうしたインデックスやタグもコンテンツの一部といえ、従来の特定事業者が行うよりも、利用者が必要としている整理の結果に近づくと考えられている。
また、事業モデルにも大きな影響を与える概念である。マーケティング理論の一つに「8:2の理論」がある。これは「全体の2割を占める顧客が売上げの8割を支える」というもので、売上げの高い順に棒グラフをつくると、最初に売上げの多い顧客層の高い棒が並び、売上げの少ない顧客の棒は後ろの方に低く「しっぽ」のように長く続く。従来のメディアなどでは売上げの高いマスの部分を対象としてきたが、これからは売上げの低い「長いしっぽの部分(ロング・テール)」、つまりニッチ(狭い分野)の人たちから大きな売上げがあがるという考えにインターネットマーケティングの考え方が移りつつある(ロング・テールの重視)。たとえば、従来ではページビューの大きなサイトにローテーションバナー広告を掲出していたが、今後は個人サイトなどにニッチな商品の広告を掲出し、それが全体の8割の売上げを支えるようになるという考え方だ。このような広告商品にはキーワード広告が該当する。
このようにウェブが従来のメディアの置き換えとしてのものから、インターネットならではのものに移りつつある段階をWeb2.0とよんでいる。
[中島由弘]
『梅田望夫著『ウェブ進化論』(2006・筑摩書房)』▽『インターネットマガジン別冊『Web2.0への道』(2006・インプレスR&D)』▽『高田寛著『Web2.0インターネット法――新時代の法規制』(2007・文眞堂)』