改訂新版 世界大百科事典 「K値」の意味・わかりやすい解説
K値 (ケーち)
K value
水産用語。魚の生きのよさを示す生鮮度判定恒数。哺乳類筋肉の場合と同様に,魚類でも死後筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)は,関連酵素によって次の経路で分解される。
アデノシン三リン酸(ATP)→アデノシン二リン酸(ADP)→アデノシン一リン酸(AMP)→イノシン一リン酸(IMP)→イノシン(HxR)→ヒポキサンチン(Hx)
この分解速度は魚種によって著しく異なるが,経路は一定である。一般にATPからIMPまでの反応は死後の早期の段階に進行し,IMPが蓄積するが,IMPからHxRを経てHxを生成する反応は遅い。したがって,生きのよい魚肉にはATP,ADP,AMP,IMPが多く,生きが悪くなるにつれてHxR,Hxが増加する。つまり,魚の生鮮度は次式のように,死後におけるATP分解生成物総量に対するHxR+Hx量の百分率(K値)で表すことができる。
初期腐敗の鮮度判定指標に用いられる全揮発性塩基窒素量,トリメチルアミン窒素量,細菌数などは,死直後から腐敗初期までの過程では著しい変化を示さない。これに対してK値は,腐敗初期までに顕著な変化を示す。たとえば,官能検査により,生鮮度低下が速いといわれるタラ類と遅いとされるタイ類の氷蔵中のK値の変化を図に示す。市販の多くの魚種のK値は,即殺魚で10%以下,刺身用の高級マグロで20%前後,一般のすし種で40~60%である。近年,K値は日本で広く用いられるようになっている。
執筆者:山口 勝巳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報