デジタル大辞泉
「総量規制」の意味・読み・例文・類語
そうりょう‐きせい〔ソウリヤウ‐〕【総量規制】
1 貸金業法などにおいて規定される、借りすぎ貸しすぎの防止策。年収の3分の1を超える借り入れを原則禁止とするもの。
2 大気汚染や水質汚濁の防止にあたって、一定地域における汚染・汚濁物質の許容排出総量を算定し、これをその地域内の工場などに配分して、総排出量を規制する方式。
3 平成2年(1990)バブル経済における土地価格の高騰を背景に、大蔵省(現財務省)が金融機関の不動産融資について行った規制。不動産向け融資の伸び率を金融機関の総貸出の伸び率以下に抑えるよう指導したもの。不動産融資総量規制。
4 放送番組におけるCMや通販番組などの広告放送の時間数の上限に関する規定。日本民間放送連盟の放送基準では、週間のコマーシャルの総量は総放送時間の18パーセント以内とする、と規定している。また、総務省は、平成23年(2011)以降に新規参入するデジタル衛星放送事業者の審査基準の一つとして、テレビ通販などの広告放送の割合が3割を超えないことを掲げている。
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そうりょう‐きせいソウリャウ‥【総量規制】
- 〘 名詞 〙 公害防止のため、排水、排ガスなど、企業から排出される汚染物を全量グラムで規制すること。汚染物質の濃度による規制に対して、その総排出量を規制する方式。〔技術革新第二版(1975)〕
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総量規制
そうりょうきせい
金融機関の不動産向け融資に対する規制。地価高騰や土地投機を抑制する目的で旧大蔵省(現、金融庁)が実施した行政指導である。列島改造ブームで地価が高騰した1973年(昭和48)やバブル経済期の1990年(平成2)に実施されたが、一般的にはバブル経済期の規制をさすことが多い。
旧大蔵省銀行局は1990年3月、バブル経済による異常な地価高騰と土地投機を抑えるため、都市銀行、旧長期信用銀行、信託銀行、地方銀行、在日外国銀行、信用金庫、生損保会社などの金融機関に総量規制を通達し、1991年12月に解除した。(1)不動産向け融資の前年比伸び率を総貸出の前年比伸び率以下に抑える、(2)不動産業、建設業、ノンバンクへの融資実態の報告を求め、規制に違反した金融機関に是正を指導する、という内容であった。通達後、金融機関は不動産融資を約束しながら、融資の不履行・凍結・打ち切りなどを実施した。これは政策的に金融機関の貸し渋りや貸し剥(は)がしを誘導することになり、不動産を中心とする資産デフレを招き、日本経済のバブル崩壊の引き金になったとの批判がある。また住専(住宅金融専門会社)が不動産融資の規制対象外となり、行政指導対象の金融機関から農林系金融機関が除かれたため、農林系金融機関から住専向けへ大量の資金が流れ、後に巨額な不良債権問題(住専問題)を引き起こす要因ともなった。なお総量規制の解除後も、大蔵省は土地関連融資について金融機関やノンバンクから聞き取り調査を実施し、不動産関連融資の伸びが総貸出の伸びを一定幅以上、上回れば総量規制を再発動するとしていた。
行政用語として、社会問題や弊害を解消する手段として、原因となる資金・物質・エネルギーなどの上限を設ける抑制手法がしばしば、総量規制とよばれる。不動産向け融資の総量規制のほか、多重債務者を解消するため貸金業者から年収の3分の1までしかお金を借りられない「貸金業法の総量規制」、大口需要家の電力使用量の上限を定める「電力総量規制」、企業などの温暖化ガスの排出量に上限を設ける「排出量の総量規制」、公害を防止するため汚染物質を濃度ではなく、総量で制限する「公害防止の総量規制」などがある。
[矢野 武 2018年3月19日]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
総量規制
そうりょうきせい
total mass emission control
大気汚染および水質汚濁対策の一つ。大気汚染対策としては,拡散理論に根拠をおく濃度規制に対し,地域ごとに,地形,気象などを考慮した汚染物質の排出許容総量を算定して,各発生源ごとに,この許容量の範囲に排出できる汚染物質を規制する方法である。具体的には,(1) 生産量あるいは生産原料を割当てる方法,(2) 燃料規制のように,汚染物質生成をより少くする原料への転換,(3) 防止技術の開発による生産方法,施設の改善,がある。総量規制の基準式には,排出の規模が大きくなるほど排出量の単位あたり汚染物質を低減させる方式と,工場,事業場ごとに最大着地濃度を等しくする方式があるが,各地域とも前者を使っている。また,水質汚濁対策でも,1978年水質汚濁防止法を改正し,一般の規制では環境基準を達成できない水域の関係地域 (指定地域) にある特定事業場について,80年から 84年にかけて順次総量規制の基準を適用する措置がとられた。当面,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海が対象とされ,総量削減基本方針,総量削減計画が立てられている。二酸化硫黄による大気汚染については,総量規制により排煙脱硫装置の設置が促進され,大気汚染を大幅に改善させる原動力となった。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
総量規制
ソウリョウキセイ
regulation of total emission
環境保全を目的に,工場や事業所から排出される汚染物質について,排出濃度ではなく,一定地域当たりで排出される総量で規制するもの.大気汚染では,硫黄酸化物と窒素酸化物について,水質汚濁では,化学的酸素要求量(COD)について規制されている.人口,工場が集中し,汚染がいちじるしい地域の環境基準を確保するために,個々の事業所や工場からの排出基準や濃度規制では,環境基準の保全が困難な地域においてとられる.また,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海の三水域では,閉鎖性水域の水質環境基準の確保を目的に,CODだけでなく,窒素,リン排出の総量規制も規定されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の総量規制の言及
【水質汚濁防止法】より
…これを上乗せ基準という(3条3項)。 汚濁発生源が集中している地域を指定水域として汚濁負荷の総量削減計画を策定し,総量規制基準を定めることができる。政令で,東京湾と伊勢湾が指定水域として指定され,瀬戸内海環境保全特別措置法によって瀬戸内海が指定されている。…
【大気汚染防止法】より
…大気汚染防止法に関しては,経済との調和条項が削除されたほか,それまでの指定地域規制が全国規制に改められ,さらに,新たに粉塵規制を含め規制対象が拡大され,ばい塵と有害物質に関する条例による上のせ規制が認められ,改善命令の手続を経ずに違反者への罰則適用が可能になる(直罰方式)などの大きな改善がみられたのである。その後同法は,72年の事業者の無過失責任制の導入,74年の総量規制制度の導入,96年の有機塩素化合物を中心とする有害大気汚染物質対策の導入(97年にはさらにダイオキシンを指定物質に追加)と,3度の大きな改正を経て今日に至っている。 現在の大気汚染防止法では,規制の対象として,(1)物の燃焼に伴うばい煙(2章),(2)物の破砕等に伴う粉塵(2章の2),継続的な摂取が人の健康を損なうおそれのある有害大気汚染物質(2章の3),(3)自動車の排出ガス(3章)が挙げられている。…
【排出基準】より
…日本では1968年以来,硫黄酸化物を中心に排出基準による大気汚染規制が行われたが,環境基準はあまりにゆるすぎ,また排出基準もK値規制とよばれる施設ごとに適用されるものであり,高い煙突をもつ大発生源者に対しよりゆるやかであった。72年の四日市公害判決を契機に硫黄酸化物の環境基準が改正されたが,従来の排出基準方式では環境基準の達成が不可能なため,74年から総量規制方式が導入された。これは地域を定めてその地域で排出される物質の総量を規制しようというもので,まずSO2に対して総量規制が実施された結果,排煙脱硫や燃料の低硫黄化がすすみ,現在ではほとんどの地域でSO2の環境基準が達成されている。…
※「総量規制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」