そのまま食べられる栄養治療食品。英語のReady to use therapeutic foodの頭文字をとったことばで、「調理不要の治療食」「そのまま食べられる栄養補助食品」「すぐ口にできる栄養失調治療食」などと訳される。アフリカやアジアなど深刻な食糧難に苦しむ地域で、栄養が欠乏した乳幼児、妊産婦、授乳婦向け援助用食品として急速に普及している。栄養価が高く、調理・調合・容器が必要なく、長期保存がきき、持ち運びが容易で、水に溶かす必要がないなどの特徴をもつ。代表的なRUTFはフランス企業ニュトリセット社(Nutriset)のCEO(最高経営責任者)ミシェル・レカンヌMichel Lescanneとフランス開発研究所(IRD)の科学者アンドレ・ブリアンAndré Briend(1930― )が1996年に開発したプランピー・ナッツPlumpy'nutである。ラッカセイをベースに粉ミルク、大豆油、砂糖、ビタミンなどを均一に混ぜ合わせたペースト状食品で、ニュトリセット社が特許を保有して製造している。このほかノルウェーのコンパクト社(Compact)が製造する高タンパクビスケット「BP100」などがある。
栄養失調に苦しむ人々への援助は粉ミルクが主流であったが、開発途上国には不衛生な水が多く、水が確保できる場所でしか利用できない欠点があった。RUTFは水が不要で携帯可能なため、医師団が巡回配布することで在宅摂取・治療が可能となり、開発途上国援助や治療のあり方を大きく変えた。非政府組織(NGO)「国境なき医師団」や国連児童基金(ユニセフ)などの国連機関が1997年以降、相次いで導入し、栄養失調を劇的に回復させる効果をあげた。世界の市場規模は2016年に約200億円と推計されており、アフリカ・アジアの低所得国で需要が伸び、世界の主要食品会社が相次いで開発に乗り出している。RUTFは値段の高さが普及の障害となっており、製造コストを下げるためプランピー・ナッツはエチオピア、マラウイ、インドなどで、BP100はケニアで、それぞれ現地生産化が進んでいる。
[矢野 武 2017年2月16日]
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