WPIと略す。企業相互間で行われる取引について、その総体的な物価水準の変動を測定する指数。2003年(平成15)からは卸売物価指数にかわって、企業物価指数という新しい経済指標が用いられるようになった。以下、従来の卸売物価指数について説明する。
卸売物価指数は、各種の物価指数のなかで消費者物価指数と並んでもっとも重要なものであった。日本では1887年(明治20)以来、日本銀行によって作成され、1934~1936年(昭和9~11)を基準とした戦前基準指数とともに、1960年(昭和35)基準以降、5年ごとに基準年次を更新し、採用商品などを改正した指数が公表されていた。1982年に、基準年次が1980年(昭和55)に更新されるに際して、従来の卸売物価の国内品指数は国内卸売物価指数となり、輸出物価指数および輸入物価指数とともに、従来の卸売物価指数に対応するものとして総合卸売物価指数を構成することになった。これらの4卸売物価の体系は1960年(昭和35)までさかのぼって作成されている。
卸売物価指数作成の方法は、まず企業間で取引される商品のなかから取引金額の大きい重要性の高い品目を選ぶ。1995年(平成7)基準指数においては、国内卸売物価指数について971品目、輸出物価指数について209品目、輸入物価指数について247品目、そして総合卸売物価指数としては以上三つの全体である1427品目が採用されている。次にそれらについて、取引価格として、原則として生産者にもっとも近い段階にある卸売業者の下での現物現金売りの販売契約価格を採用する。これによって基準年次における各品目の取引金額(輸出物価指数、輸入物価指数については、それぞれ輸出・輸入額、総合指数については、3指数のウェイト(加重)の合計金額)割合をウェイトとしたラスパイレス算式によって指数を算定する。作成される指数の構成としては、基本分類指数として工業製品、農林水産物、鉱産物、電力・都市ガス・水道、スクラップ類の類別指数とそれらの総合指数が作成され、さらに特殊分類指数として用途別指数(生産財指数、資本財指数、消費財指数、産業別指数、企業規模別指数)が作成されていた。公表指数としては月間指数と年間指数が作成され、『物価指数月報』『物価指数年報』『在庫統計確報』『通産統計』『鉱工業指数年報』等に掲載された。卸売物価指数には消費財だけでなく原材料などの生産財や設備機器などの資本財も大量に含まれているので、国民経済の動向をもっとも敏感に反映する指数であると考えられ、また企業取引段階における各種の商品の需給動向をうかがわせるものでもあるところから、産業別あるいは企業規模別などの景気動向を示す重要な指標ともなりうるものであった。
[高島 忠]
企業間で取引される商品の価格変動を卸売段階で測定する指数。(1)企業間の商品取引における通貨購買力測定の尺度,(2)金額表示の諸統計を数量ベースに引き直す際のデフレーター,(3)企業間で取引価格を決定する際の参考指標(インデクセーション)などとして広く利用されているほか,(4)商品の全般的な需給動向,ひいては景気動向の判断指標(景気指標)としても活用されている。
日本の卸売物価指数は,日本銀行が,日清戦争後の物価高騰などを契機に,1887年から作成している(〈東京卸売物価指数〉,1887年1月基準)。現行の指数(1980基準)は,国内市場向け国内生産品を対象とした〈国内卸売物価指数〉,輸出品,輸入品を対象とした〈輸出物価指数〉〈輸入物価指数〉,およびこれらを総合し,企業間で取引される全商品(土地,建物等を除く)を対象とする〈総合卸売物価指数〉から構成されており,採用品目およびそれらのウェイトを基準時に固定した加重算術平均法(ラスパイレス算式)によって計算され,いずれも毎月発表されている。基準時は5年ごとに変更される。採用品目は,国内卸売物価指数819品目,輸出物価指数212品目,輸入物価指数154品目,計1185品目(1品目につき複数の価格が調査されているため,調査価格数は約3600価格)にのぼっており,商品の企業間取引総額の7割強がカバーされている。価格調査は,対象品目ごとに銘柄,取引条件を特定し,企業間の取引が集中する段階の契約価格を採用することを原則としている。〈国内卸売物価指数〉は通常第1次卸売業者の販売価格(ただし,卸売業者を通さず需要家に直接販売される商品についてはメーカーの出荷価格),〈輸出・輸入物価指数〉は輸出・輸入水際段階の価格(原則として,それぞれFOB価格,CIF価格)をそれぞれ調査している。
卸売物価の指数体系,分類編成は,各種分析ニーズに対応できるように工夫されているので,利用目的に応じて使い分けることが必要である。たとえば,(1)国内卸売物価指数と輸出物価指数を合成することによって国産品指数の算出が可能であり,(2)需要段階別・用途別分類指数を用いて水際段階の価格変動の波及プロセスを分析できる。また,(3)輸出・輸入物価については円ベース指数(外貨建て契約価格を為替相場により円換算した指数)と各契約通貨建て価格自体を合成した契約通貨ベース指数が公表されているので,両指数を比較することにより為替変動の直接的影響を把握できる。
欧米主要国の卸売物価指数は,その対象範囲や価格調査の段階など指数内容がそれぞれ若干異なっている。たとえば指数の対象範囲については,アメリカが国内品,輸出・輸入品をすべて対象としているのに対して,西ドイツ,イギリスでは国内品のみを対象としている。また調査価格についても,メーカーの販売価格を採用する国(アメリカ,西ドイツ。なお両国では名称も生産者物価指数としている)が少なくない。したがって卸売物価指数を国際比較する場合には,各国の指数の対象範囲,作成方法等に留意する必要がある。2002年12月より企業物価指数と呼ぶこととなった。
→消費者物価指数 →物価指数
執筆者:日本銀行調査統計局
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…もちろん現実経済に一般的な物価というものが存在するわけではなく,それは統計的な指数(多くの財の価格の平均)によってとらえられるものである。たとえばどのような財の価格を指数に取り入れるかによって,消費者物価指数,卸売物価指数,GNPデフレーター等があり,これらはそれぞれ目的に応じて使い分けられている。 さて一般物価水準の変動(その上昇がインフレーションにほかならない)にわれわれが関心をもつのはどのような理由によってであろうか。…
…こうした統計調査に基づき収集した価格について,その変動を総合的にとらえるため,基準時を特定し,一定の算式を用いて指数化したのが物価指数である。それぞれ固有の利用目的をもついろいろな物価指数のなかで,代表的なものとしては〈消費者物価指数〉と〈卸売物価指数〉とがある。消費者物価指数(総務庁作成)は,全国の一般消費者世帯(農林漁家世帯,単身者世帯を除く)が消費目的のために購入する商品・サービスの価格(小売物価統計調査によって得られた小売価格)を対象とし,その全般的な物価水準の変動を測定することを目的とした指数で,1946年8月から統計が始められている。…
※「卸売物価指数」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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