特定の地域に限定して分布する生物の種をさす。特産種ということも多い。地域の大きさはさまざまにとることができるが,最大は1大陸とみてよい。2大陸以上にまたがって分布する種は,汎存種(はんぞんしゆ)または広分布種と呼ばれる。日本の種子植物のうち固有種はフサザクラ,カツラ,イワユキノシタや見慣れたカントウタンポポやカンサイタンポポなど,北海道から九州にかけて1600余種を数えることができる。
固有種は,分布の成立時期を考慮した場合,遺存固有(古固有)および新固有に分けることができる。両者は必ずしも明確に区別できるものではないが,遺存固有は比較的古い時代に生じたとみられ,分布圏の縮小の結果固有となったものであり,周辺地域に近縁植物群が存在せず,形質の上でも孤立の度が高い。遺存固有の直接的な証拠は,化石の産出域が,現在の分布圏よりも広いことである。新固有種は比較的新しい時代に生じたとみられ,分布圏を拡大する以前の状態にある場合であり,周辺地域に近縁種を産するのがふつうである。もちろん,他地域には化石を産しない。一般的にいえば,分類群の上位の群は遺存固有的であり,下位の群は新固有的である。また遺存固有にしろ新固有にしろ,生態的に特殊な場所(特殊な岩石地帯や湿原など)は,隔離の結果,固有種に富む。
ある地域の固有種の割合を固有率という。固有率は生物相の特異性の指標で,地理的生態的な隔離の度合を表すと考えられる。日本列島の植物の場合,北海道,本州,四国,九州,小笠原諸島,琉球諸島における種の固有率はいずれもほぼ40%。固有率は海洋島ではとくに大きく,ハワイ諸島やセント・ヘレナ島では,種の固有率は90%に達する。
執筆者:清水 建美 日本産の動物に関しては,原生動物から脊椎動物まで,海生,淡水生,陸生を問わず,多くの固有種が知られている。よく知られた例としてベニオキナエビスガイやタカアシガニなどの海生動物のほか,オオムラサキやギフチョウなど多くの昆虫類,オオサンショウウオやニホントカゲ,アオダイショウなどの両生・爬虫類,ヤマドリ,ノジコ,セグロセキレイなどの鳥類,ニホンザル,ホンドリス,モモンガ,アマミノクロウサギ,イリオモテヤマネコ,ニホンカモシカなどの哺乳類があげられる。日本産の鳥や哺乳類の多くは固有亜種に分化している。世界各国あるいは動物地理区ごとに見ても,固有種が存在し,また固有亜種が分化している。なお,土着種native speciesというのは外来種に対する概念で,必ずしも固有種ではない。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある特定の地域あるいは島にだけ局限して産する生物の種類をさし、一般にいう特産種と同じ意味である。ただし、産する範囲があまり広い場合には用いない。固有種は主として地理的な隔離が原因となって生じたものと考えられ、一地域の生物中で固有種が占める割合は、とくに島の場合など、隣接の陸地から島が分離した時期が古いか新しいかを判断する資料となりうる。つまり、固有種が多いほどその島などが、大陸あるいは隣接の陸地から古い時代に離れたことを意味する。一般に、移動能力の小さい生物(陸産貝など)や、海流や気流によって伝播(でんぱ)されないような生物(淡水魚類など)ほど、局地的に固有種や固有型を生じやすいといえる。
[中根猛彦]
(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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