ヤマドリ(読み)やまどり(その他表記)copper pheasant

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマドリ」の意味・わかりやすい解説

ヤマドリ
やまどり / 山鳥
copper pheasant
[学] Phasianus soemmerringii

鳥綱キジキジ科の鳥。本州、四国、九州にのみ分布する日本特産種。台湾のミカドキジ、中国北部のオナガキジなどとともにオナガキジ属Syrmaticusとすることがある。雄は尾が40~90センチメートルと長く、全長は約125センチメートルに達し、体重約1.5キログラム、全身赤褐色で美しい。雌はかなり小さく、尾長約20センチメートル、全長約55センチメートル、体重約0.8キログラムである。おもに雄の羽色の違いによって5亜種に分けられる。本州中部地方産の亜種ウスアカヤマドリは、雄の背、肩羽、腰に金属光沢があり、白斑(はくはん)が散在する。腹の羽縁も半円形に白く美しい。目の周りは赤い皮膚が裸出し、目の下は三日月形に白い。尾は黄白地に、白、黒、褐色の斑が節状にある。雌の羽色は灰褐色、黒、褐色の複雑な斑紋があり、くさび形の尾は赤褐色で先端が白く、飛ぶと目だつ。九州南部産のコシジロヤマドリは、腰が輝くように白く美しい。

 ヤマドリは平地から低山のよく茂った林に生息し、とくに谷に多い。草原や明るい林を好む近縁のキジに対して、暗い場所を好み、スギ、ヒノキの造林地にも入る。地上で、草の種子、木の実などの植物質、昆虫、クモなどの小動物をとるほか、高い枝やつるに止まって、ヤドリギの実やカシ、ナラなどの堅果を食べる。渡りはせず、多雪地帯でも、雪の積もらない渓流や雪の融(と)ける湧水(ゆうすい)地などで食物を探す。単独または数羽の小群で行動し、4~6月の繁殖期になると、雄は翼を羽ばたいて、ドドド……という、俗に「ほろを打つ」と表現される音を出す。一夫多妻で、雌は交尾後、林内の地上の物陰に、木の葉や枯れ草を敷いた巣をつくり、7~13個の卵を産む。抱卵日数は約24日。抱卵と雛(ひな)の世話は雌のみが行う。あまり鳴かないが、クククと低い小さな声を出すほか、雄は繁殖期にチュイッと鋭く鳴く。外敵にあうと、地上に伏せて隠れたり、飛び上がって渓谷を下り、または樹上の茂みに身を潜める。猟犬を使う銃猟の対象として狩猟鳥に指定(コシジロヤマドリを除く)されており、毎年約50万羽が猟獲されている。飼育下では、雄が雌をつつき殺すことが多く、キジに比べて人工増殖が遅れていたが、1970年代に人工授精による技術が確立した。

[竹下信雄]

食用

肉質、風味ともキジ肉に似ている。猟鳥なので、山間部や観光地での郷土料理としてすき焼き、炊(た)き込みご飯、つけ焼き、から揚げなどにして食べられている。内臓のにおいが強いため、肉にもいくぶんにおいが残るが、みそ、ショウガ、ネギなどを用いるとにおい消しができる。

河野友美

文学

『枕草子(まくらのそうし)』「鳥は」の段に、「山鳥、友を恋ひて、鏡を見すれば慰むらむ、心若う、いとあはれなり。谷隔てたるほどなど、心苦し」とあるのが、古典文学における「山鳥」の典型的な通念である。一つは、山鳥は友を慕って鳴き、鏡に映る自分の姿を見て心を慰めるというものであり、一つは、夜には雌雄が谷を隔てて臥(ふ)すというものである。『俊頼髄脳(としよりずいのう)』には、『万葉集』の「山鳥の尾ろのはつをに鏡掛けとなふべみこそ汝(な)に寄そりけめ」(巻14)という歌の解釈として、昔、帝が隣国から贈られた山鳥が鳴かなかったので、女御(にょうご)たちにこの山鳥を鳴かせることができた者を皇后にする、と仰せられたところ、一人の利発な女御が、友がいないから鳴かないのだろうと推測して、この山鳥の前に鏡をかけて見せたところ、首尾よく鳴いて思いどおりに皇后になった、という伝承を踏まえて詠んだものと記されている。また、雌雄別離という通念は、すでに『万葉集』にみえる。『源氏物語』「夕霧(ゆうぎり)」の、夕霧が落葉(おちば)の宮(みや)に求愛して拒絶される場面、「総角(あげまき)」の、薫(かおる)が大君(おおいきみ)に忌避される場面に、「山鳥の心地して」とあるのは、いずれもこの雌雄別離の通念に即した叙述である。『方丈記(ほうじょうき)』には、「山鳥のほろほろと鳴くを聞きても、父母かと疑ひ」と、鳴き声が記されており、『古今集』に雉(きじ)の声を「ほろろ」(雑躰(ざってい)・誹諧歌(はいかいか))としているのと類似している。季題は春。

[小町谷照彦]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤマドリ」の意味・わかりやすい解説

ヤマドリ (山鳥)
copper pheasant
Phasianus soemmerringii

キジ目キジ科の鳥。日本の固有種で,本州,四国,九州の山林に生息する。北海道と佐渡島,屋久島,種子島などの付属島嶼にはすんでいない。雄は雌より大きく(とくに尾が長い),全長約125cm。頭頸(とうけい)部と背面は赤みの強い銅褐色で,腹は淡黄褐色,体には白色,淡黄色,黒色の模様がある。長い尾は黄褐色で,白色ないし淡黄色,黒色,栗色からなる節状斑がある。眼周部は皮膚が裸出して赤い。雌は全長約60cm。羽色は雄よりじみで,赤色みは少ない。また尾が雄よりずっと短く,灰褐色で,雄のような節状斑がない。

 分布域によって多少羽色や尾の模様に違いがあり,次の5亜種に分けられている。キタヤマドリP.s.scintillansは島根県および兵庫県以北の本州に分布し,他の亜種よりやや赤色みに乏しい。シコクヤマドリP.s.intermediusは兵庫県,島根県以西の本州南西部と四国の大部分に分布し,尾羽の地色がキタヤマドリより濃い。ウスアカヤマドリP.s.subrufusは伊豆半島,紀伊半島,四国南西部に分布し,赤色みに富み,背中の白斑は黄色がかっている。アカヤマドリP.s.soemmerringiiは九州北・中部に分布し,ウスアカヤマドリよりいっそう赤色みが強く,色が濃いめである。コシジロヤマドリP.s.ijimaeは九州南部に分布し,体の色はアカヤマドリと同様だが,腰が著しく白い。

 キジと違って,畑や開けた雑木林にはすまず,山地の斜面や渓流沿いの林に生息する。雄は繁殖期に,地上で両翼を打ってドドドドドあるいはボト,ボト,ボト,ボトという音をたてるが,これを俗に〈ヤマドリが母衣(ほろ)を打つ〉という。巣は地上の,木の根もとや石のかげなどにつくる。産卵期は4~6月までで,1腹の卵数は7~10個。卵の色は淡い黄褐色。雌だけが24~25日間抱卵する。孵化(ふか)した雛は全身がクリーム色をおびた赤さび色の綿羽でおおわれ,歩くことができる。おもに草の種や葉,果実など植物質を食べるが,昆虫類,クモ類,カタツムリ,ナメクジなどの動物質もよく食べる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヤマドリ」の意味・わかりやすい解説

ヤマドリ
Syrmaticus soemmerringii; copper pheasant

キジ目キジ科。日本にのみ分布する種。全長は尾羽のたいへん長い雄が 125cm,短い雌が 55cm。北海道に移入されているが,在来種は本州四国地方九州地方にのみ繁殖分布し,5亜種に分類されている。境界は明確ではないが,ヤマドリ(キタヤマドリ)S. s. scintillans兵庫県以北の本州に,シコクヤマドリ S. s. intermedius中国地方と四国に,ウスアカヤマドリ S. s. subrufus は本州南部(房総半島伊豆半島紀伊半島山口県西部)と四国南部に,アカヤマドリ S. s. soemmerringii は九州の中部,北部に,コシジロヤマドリ S. s. ijimae は九州南部にそれぞれ分布する。雌は全身褐色地に白と黒褐色の斑がある。雄の羽色は亜種によって異なり,たとえばキタヤマドリでは,頭頸部が赤褐色,体のほかの部分は褐色で白と黒褐色の斑が密にあり,腰はやや白斑が多く白っぽい。尾は褐色で,黒褐色と白色の節状横斑がある。一般に南のものほど赤褐色みが強くなる。どの亜種も,眼の下には白色斑があり,眼の周囲には赤い皮膚が裸出している。脚は灰青色。キジに比べて山地性で,開けた草地,荒れ地に姿を現すことは少なく,樹木のよく茂る林内を好む。近年,人工繁殖した鳥を放鳥しているが,生息数は山地の開発とともに減少している。

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百科事典マイペディア 「ヤマドリ」の意味・わかりやすい解説

ヤマドリ

キジ科の鳥。翼長21〜22cm。雄の尾はひじょうに長い。頸部,背面は普通,赤銅色だが,羽色によっていくつかの亜種が区別されている。日本固有種で本州以南に分布。低地〜低山の林に留鳥としてすみ,地上で植物の種子,昆虫などをあさる。繁殖期には雄は翼をふるわせてドドドドという音を出して雌を呼ぶ。くさむらのくぼみ等に営巣。

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