(読み)たね

精選版 日本国語大辞典 「種」の意味・読み・例文・類語

たね【種】

〘名〙
① 草木の発芽もとになるもの。種子(しゅし)
万葉(8C後)一二・二九九九「水を多み上(あげ)に種(たね)蒔き稗(ひえ)を多み選らえし業そ吾が一人寝る」
日葡辞書(1603‐04)「Taneuo(タネヲ) マク」
② 果実の核。さね。
※師郷記‐嘉吉元年(1441)六月六日「未剋俄大風大雨、以外事也、又雹降、大如梅核云々」
夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第一部「堅い胡桃の核(タネ)を割って」
③ 動物の発生するもととなるもの。精子など、生殖のもとになるもの。
※大唐西域記巻十二平安中期点(950頃)「桑蚕の子(タネ)を以て帽絮の中に置きて」
④ (胤) 血統。血すじ。また、それを伝えるものとしての子。子孫系統
※枕(10C終)二四五「さうなしのぬし、尾張人(をはりうど)のたねにぞありける」
物事の発生するもと。根源原因
※万葉(8C後)一四・三四一五「上野伊香保の沼に植ゑ子水葱(こなぎ)かく恋ひむとや多禰(タネ)求めけむ」
古今(905‐914)仮名序「大和歌は人の心をたねとして、万の言の葉とぞなれりける」
⑥ 物をつくる材料。製作の原料。また、料理の材料。汁の実。
真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉一八「お吸物も、なんでございます。詰らない種でございますから、海苔でも焼いて上げませうか」
⑦ 手段を施す材料。後に備えてあらかじめつくり設けておくもの。仕掛け。また、裏に隠された事実やからくり
※浮世草子・好色五人女(1686)四「吉三郎殿にあひ見る事の種(タネ)ともなりなん」
※真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉九三「他の者へ話してゐるのを私が傍で聴いて居たから事実(タネ)を知ってるのでございます」
⑧ 物事のよりどころとするもの。準拠する基(もとい)となるもの。たより。
西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉二「ありゃア、近松戯作で種(タネ)のねへことだは」
福翁自伝(1899)〈福沢諭吉緒方の塾風「ソコで其写本と云ふことが又書生の生活の種子(タネ)になった」
⑨ 元金。元手。
※歌舞伎・曾我菊梅念力弦(1818)三立「利足どころか、悪く致すと、種(タネ)まで返した事はござりませぬ」
⑩ 質草。
※俳諧・西鶴大句数(1677)二「月も花も昔になした質の種 あきがら匂ふ藤つづらかも」

しゅ【種】

〘名〙
① 植物のたね。種子。
② 種類。品類。たぐい。名詞に付いて接尾語的に用い、その名詞に含まれる種類の一つであることを表わしたり、いくつかの種類のものを数える単位としても用いる。
※大乗院寺社雑事記‐文明四年(1472)正月八日「東門院僧正来。瓶子一双両種持参」
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉八「プレートーは〈略〉此種の逆上を神聖なる狂気と号したが」
③ 生まれ。血筋。
※観智院本三宝絵(984)下「善悪人をいはず貴賤種をえらばず」 〔史記‐陳渉世家〕
④ 物事の根源。もと。また、物事の素材や人の素質など、そのものを成立させている重要な要素。
※勝鬘経義疏(611)歎仏真実功徳章「法者法身。万善為種」
⑤ 哲学で、より広い集合(類)の中に含まれ、種差によって他と識別される、より狭い集合。たとえば、「動物」という類に含まれ、「理性的」という種差で他の動物から識別される「人間」という集合。〔哲学字彙(1881)〕
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「哲学上所謂(いはゆる)宇宙の観念とか、種(シュ)の意志とか」
⑥ 生物群の分類学上の基本単位。属の下位で、他の個体または個体群からある特徴的な形態上の不連続性を示す個体群をいう。通常、一定の生息域、分布域をもち、個体間で生殖により、正常な子孫を生むことができる。種の下位の分類階級として、亜種・変種・品種などがある。生物学的種。リンネ種。〔植物小学(1881)〕
⑦ 仏語。仏菩薩が衆生の心に植えつける種子で、仏法との縁が結ばれることをいう。下種。
※日蓮遺文‐観心本尊抄(1273)「在世本門末法之初一同純円也、但彼脱此種也」
⑧ 修行を三つの段階に分け、その初歩段階。
※ささめごと(1463‐64頃)下「諸道に種・熟・已達とて、三つの位あるべしとなり」
⑨ 世阿彌の作劇法理論の一つ。「種・作・書」の三段階の第一で、素材の選択をいう。
※三道(1423)「一、種とは、芸能の本説に、其態(そのわざ)をなす人体にして、舞歌の為大用なる事を知るべし」

くさ【種】

[1] 〘名〙
① 物事を生ずるもと。それによって物事が成り立っているもの。たね。くさわい。
※源氏(1001‐14頃)行幸「ただ、さる、もののくさの少(すく)なきを、かごとにても、何かはと、思ふたまへ許して」
※歌仙本伊勢集(11C後)「名に立てる音(ね)だに泣かれば憂き事は身のまだ消えぬ草にぞありける」
② 種類。たぐい。品(しな)。くさわい。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)二「是の初の仏身は衆生の意多くの種(クサ)有るに随ふが故に」
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「唐土・高麗と尽くしたる舞ども、くさおほかり」
③ 質として入れる品物。しちぐさ。
[2] 〘接尾〙 物の種類を数えるのに用いる。
※書紀(720)垂仁三年三月(北野本訓)「将(も)て来(き)たる物は、羽太(はふと)の玉(たま)一箇(ひとつ)〈略〉熊(くま)の神籬(ひもろき)一具(ひとそなへ)、并(あは)せて七(なな)(クサ)あり」

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デジタル大辞泉 「種」の意味・読み・例文・類語

たね【種】

植物が発芽するもとになるもの。種子しゅし。「く」

㋐人または動物の系統を伝えるもととなるもの。精子。「を宿す」「馬のをつける」
㋑(「胤」とも書く)血筋。血統。父親の血筋をさすことが多い。また、それを伝えるものとしての、子。「高貴の
物事の起こる原因となるもの。「混乱の」「悩みの
話や小説などの題材。「うわさのになる」
料理の材料。また、汁の。「おでんの」「すし
裏に隠された仕掛け。「手品のを明かす」
よりどころとするもの。「生活の」「飯の
物の、質。「客
[下接句]商いは草の種苦は楽の種品玉も種から生業すぎわいは草の種楽は苦の種苦は楽の種
[類語](1種子種物さね種皮菜種/(3原因もと近因遠因せい起こりきっかけいん因由素因真因要因一因導因誘因理由事由じゆうわけ起因する基づく発する根差す/(5材料浮き実加薬薬味

しゅ【種】[漢字項目]

[音]シュ(呉) [訓]たね くさ
学習漢字]4年
〈シュ〉
植物のたね。生み殖やすもと。「種子種皮種畜断種播種はしゅ
たねをまく。植えつける。「種痘接種
共通の性質によって分類されるもの。「種族種目種類一種各種機種職種人種多種同種品種
生物の区分けの一。属の下。「種名亜種
〈たね(だね)〉「種馬種本子種火種物種
[名のり]おさ・かず・ぐさ・しげ・ふさ
[難読]種種くさぐさ下種げす

しゅ【種】

一定の基準によって分類・類別したもの。種類。たぐい。「このの食べ物は苦手だ」
生物分類学上の基本単位。の下位。共通する形態的特徴をもち、他の個体群との形態の不連続性、交配および生殖質の合体の不能、地理的分布の相違などによって区別できる個体群。種を細分するときは亜種変種品種を用いる。
種概念」の略。
[類語](1種類ジャンル品種範疇たぐい/(2絶滅種絶滅危惧種在来種固有種外来種外来生物雑種交配種ハイブリッド

くさ【種】

[名]
物事が生じるもとになるもの。たね。材料。原因。多く「ぐさ」と濁り、複合語として用いる。「語り」「質
たぐい。種類。
唐土もろこし高麗こまと尽くしたる舞ども、―多かり」〈・紅葉賀〉
[接尾]助数詞。物の種類を数えるのに用いる。
「二―づつ合はせさせ給へ」〈・梅枝〉

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百科事典マイペディア 「種」の意味・わかりやすい解説

種【しゅ】

生物分類の基準単位。英語ではspecies。種の概念はリンネにより形態の不連続性を基礎として設定された(18世紀中ごろ)。その後進化論,遺伝法則の確立,生態学的見地の導入などによって少しずつ修正を加えられ,現在,最も広く受け入れられている定義では,相互に交配して生殖能力のある子孫をつくることができる自然集団で,しかも他の集団から生殖的に隔離されたものを指す。属genus,科family,目order,綱class,門phylum,divisionなど他の上位の分類単位と異なって,種は生物の生活単位としての実体をもち,生物群集や生態系の中で固有の役割を果たしている。種の記載には,分類学上の約束に従って,二名法(学名)が用いられる。種を細分する場合は亜種,変種,品種が用いられるが,これらの厳密な定義は困難である。
→関連項目マイヤー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「種」の意味・わかりやすい解説


しゅ
species

生物分類学上の基本的単位。この概念は C.リンネの考えた種のような生物の形態の不連続を基礎として成立したのであるが,生物学の進展に伴い,形態のみでなく,生殖的な融合の可能性や地理的分布の関係なども考慮にいれるように修正がなされてきている。種よりも上の分類単位は属で,今日一般に採用されている自然分類においては,二名法によって属名,種小名を与えることにより,その種の最小単位,したがって自然分類上の位置を示すように定めている。種は進化においても,C.ダーウィンの著作の表題『種の起原』が示すとおり考察の中心であるが,理論的にも実験的にも,いろいろ困難な問題をはらんでいる。

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世界大百科事典 第2版 「種」の意味・わかりやすい解説

しゅ【種 species】

生物の分類および存在の基本的な単位。種をどう定義するかは生物学にとっての根本的な課題であるが,分類学者,遺伝学者,生態学者それぞれの立場によってさまざまな考え方があり,現在のところひと言で種を定義することは不可能である。しかし厳密な定義をさておけば,実在としての種はかなり明確なものであり,実際の取扱いにおいては大きな混乱はない。ここでは主として分類学の立場から種について説明する。日常語で種類という場合には生物学的な分類の階級を考慮したものではないため,亜種や変種,ときには属や科などを指すこともある。

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栄養・生化学辞典 「種」の解説

 生物の分類の基本単位.形態を基礎とするリンネの種の概念をはじめとして,諸種の定義がされる.

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世界大百科事典内のの言及

【生物】より

…すなわち,自己と同じものを作って増殖していく。そして個体としては傷ついた部分を修復し,また増殖をとおして種を存続させていくなど,自己保存の機能をもっている。これもまた生物に固有の性質である。…

【種子】より

…種(たね)ともいう。人類の主食がコメやムギであることからも明らかなように,植物の種子は古来より動物や人間の生活に欠くことのできないものであった。…

※「種」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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