抗菌薬への耐性を獲得した細菌。世界中で確認され、感染症の予防や治療が困難になるケースがある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)などがあり、今後も抗菌薬が効かない感染症は増えると予想される。抗菌薬の不適切な使用が原因とされ、家畜の飼料に使われた抗菌薬によって耐性菌が増え、広がることもある。
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治療に使用する特定の種類の抗菌薬が効きにくい、または効かなくなった(抗菌薬に対する抵抗力をもった)細菌。AMR(antimicrobial resistance)菌ともよばれる。薬剤耐性菌のなかでも、多くの抗菌薬に耐性をもった細菌を「多剤耐性菌」、市販されているすべての抗菌薬に耐性を示す菌を「汎薬剤耐性菌」あるいは「スーパー耐性菌」とよぶ。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
抗微生物薬のうち抗菌薬は、細菌だけがもつ構造を壊したり、増えるのを抑える薬である。微生物からつくられた抗菌薬を抗生物質とよび、代表的な抗生物質に青カビ(真菌)がつくりだす「ペニシリン」がある。1928年、イギリスの細菌学者A・フレミングが世界初の抗菌薬であるペニシリンを発見してから現在までの100年ほどの間に、多数の抗菌薬が開発されてきた。その一方で、それらの抗菌薬に対する耐性菌がそのつど出現してきた。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
細菌の抗菌薬に対する抵抗力にはさまざまな機序がある。代表的な機序には、抗菌薬が働く部分を変化させて効果が出ないようにする、抗菌薬が細菌に働く前に分解してしまう、細菌を覆っている膜を変化させて抗菌薬が内部へ入りにくくする(外膜変化)、内部に入ってきた抗菌薬を汲(く)み出してしまう(排出ポンプ)、などがある。これらの仕組みは、細菌が本来もっていたり、ほかの細菌から譲り受けたり、抗菌薬の使用によって誘導されたりするものである。
たとえば、抗菌薬の不適切な使用(過去に処方されて余っている抗菌薬を自己判断で服用する、処方通りの量・期間を守らない)により、(それまで耐性菌の増殖を抑えていた)抗菌薬の効く細菌が減少し、耐性菌だけが生き残った状態になる。
また、入院中の患者が、抗菌薬により常在菌が少なくなり、かわりに耐性菌が増えた状態で、治療に必要な血管カテーテルや尿道カテーテルが挿入されたり、人工呼吸器で管理されたりすると、耐性菌による感染症をおこしやすくなる。通常なら耐性菌が体に入ってきても感染症をおこさずに、しばらくすると体から排除される場合が多いが、体の免疫機能が低下していると細菌を体から排除することができなくなり、感染症をおこしてしまう。一部の耐性菌では、普段は健康な人にも感染症をおこすことがあり、注意が必要である。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
代表的な耐性菌感染症には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA感染症)、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、基質拡張型β(ベータ)ラクタマーゼ産生菌感染症、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症、多剤耐性緑膿菌感染症、多剤耐性アシネトバクター感染症、多剤耐性結核菌感染症がある。症状・症候はおのおのの感染症によりさまざまである。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
医療施設にある細菌検査室では、感染症をおこしている患者から採取された検体(血液や痰(たん)、尿など)を用いて細菌培養検査が行われる。培養されたコロニー(細菌の集まり)を用いて、濃度を調整した抗菌薬の存在下における発育の有無を調べる。抗菌薬ごとにあらかじめ定められた最小発育濃度があり、その基準となる濃度を超えた抗菌薬の存在下で菌が発育した場合に「耐性」と判断する。一方で、耐性菌が抵抗性を示す機序は複雑であり、近年では遺伝子検査により耐性遺伝子保有の有無を検出する方法も行われている。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
多剤耐性菌であっても一部の抗菌薬は使用可能であり、治療法がまったくないわけではない。しかし、使用できる抗菌薬の種類は限られるため、耐性でない菌と比べると治療が困難になる。そのため、耐性菌を生み出さないことや、広げないことが重要になる。
耐性菌はおもに、人の手や汚染された環境を介した接触感染により伝播(でんぱ)する。そのため、医療機関や介護施設における感染伝播予防には、耐性菌保有の有無にかかわらず、患者・施設利用者やその周囲の環境に触れる前後での手指消毒がもっとも重要である。また、耐性菌の出現を抑えるためには抗菌薬の適正な使用が求められる。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
感染症をおこしている部位や耐性菌の種類、患者の免疫状態によって経過や予後はさまざまである。しかし、耐性菌と抗菌薬が有効な菌とで感染症がおこった場合を比較すると、耐性菌のほうが2~3倍程度致命率が高くなることがわかっている。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
毎年、世界各地で新たな耐性菌が報告されている。いったん発生した耐性菌は少しずついろいろな地域に広がっていき、今後も増えていく可能性が高い。2050年には、全世界で毎年1000万人の人々が耐性菌で死亡するという予測もある。
2015年の世界保健機関(WHO)総会では「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、加盟国は2年以内に国家行動計画を策定するよう求められた。これを受け、日本でも2016年(平成28)に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が決定し、これに基づいてさまざまな取組みが行われている。
[水野真介・笠井正志 2024年11月18日]
…【日高 敏隆】
[薬剤耐性]
抗生物質,化学療法剤,紫外線あるいはバクテリオファージなど,細菌が本来生育を阻害されるはずの要因が存在する環境下でも,細菌が生育を続けるようになることがある。このような細菌を耐性菌というが,医学では,耐性をえた結果,薬のきかなくなる薬剤耐性菌が治療上問題になる。薬剤耐性は,自然耐性(自然抵抗性)と獲得耐性(獲得抵抗性)に分けられる。…
※「薬剤耐性菌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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