改訂新版 世界大百科事典 「キャピタルゲイン課税」の意味・わかりやすい解説
キャピタル・ゲイン課税 (キャピタルゲインかぜい)
資産価値の増加から生ずる利得を,有価証券の配当および利子収入であるインカム・ゲインincome gainに対し,キャピタル・ゲインcapital gainと呼び,資本利得という訳語が一般的である。日本の所得税法では譲渡所得という用語が使われている。租税負担率のますます高まりつつある先進福祉国家において,租税負担の公平に対する要求は強くなってきているが,キャピタル・ゲインに対する課税はつねに大きな争点を形成している。納税者の租税の負担能力の指標として今日最も一般的に採用されるのは所得であるが,所得の概念は必ずしも明確ではない。経済学者に最も支持されている所得の概念に純資産増加説があるが,これによるならば,所得は,ある一定期間中に納税者が消費した財やサービスの価値と同期間中に発生した資産の価値の純増加額との合計である。この所得の概念はきわめて包括的であり,実現したキャピタル・ゲインのみならず,発生はしたけれども未実現のキャピタル・ゲインも含まれる。有価証券を例にとると,1株100円で買ったものが現在200円にまで上昇していれば,実際にその価格で売却して差額である1株当り100円のキャピタル・ゲインを実現しなくてもキャピタル・ゲインは発生しており,したがって所得とみなされて所得税の課税対象となる。同様に土地や家屋その他の不動産や動産の価値の上昇から生じたキャピタル・ゲインは,実現していようと未実現であろうと,所得税の課税対象となることになる。
経済理論からみると合理的・包括的な所得概念も税務行政上はいろいろむずかしい問題を抱えていて,キャピタル・ゲイン課税は不完全な形でしか実施されていない。例えば有価証券の売買から生じるキャピタル・ゲインについては,シャウプ税制崩壊後,近年まで原則非課税であったが,1988年の改正により,有価証券の売買から生じるキャピタル・ゲインは,原則的に課税されることになった。すなわち,89年以降,株式等(若干の例外あり)のキャピタル・ゲインは,事業所得,譲渡所得および雑所得にあたるかを問わず,他の所得と分離して20%の税率で課税される。
しかし,有価証券のキャピタル・ゲインの全額課税ではない点で,採用された制度は不徹底なものである。資産にはそれ以外にもいろいろな動産や不動産があるが,税務行政上の制約から,実際に課税対象となる資産は大幅に限定されざるをえない。
日本の所得税制度においても,譲渡所得課税としてキャピタル・ゲインに対する課税が実施されている。一般の課税方式によって,土地・建物等以外の資産に対する譲渡所得が課税されている。保有期間5年を超える資産の譲渡による所得は長期譲渡所得と呼ばれ,他方,保有期間5年以下の資産の譲渡による所得は短期譲渡所得と呼ばれるが,税率は後者のほうが高い。長期・短期譲渡所得について,詳しくは〈土地税制〉の項を参照されたい。
土地・建物等にかかる譲渡所得に対する課税は分離課税の特例の対象になっている。複雑な算定式が存在するが,総合課税としての所得税の例外を形成しており,一般的には総合課税された場合より租税負担は低くなるから優遇税制として批判の対象となっている。
→インカムゲイン・キャピタルゲイン
執筆者:林 正寿
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報