セルフネグレクト(読み)せるふねぐれくと

デジタル大辞泉 「セルフネグレクト」の意味・読み・例文・類語

セルフ‐ネグレクト(self neglect)

成人通常生活を維持するために必要な行為を行う意欲能力を喪失し、自己の健康・安全を損なうこと。必要な食事をとらず、医療を拒否し、不衛生な環境で生活を続け、家族周囲から孤立し、孤独死に至る場合がある。防止するためには、地域社会による見守りなどの取り組みが必要とされる。自己放任

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知恵蔵 「セルフネグレクト」の解説

セルフネグレクト

生活していくのに必要な行為を行わない、あるいは行う能力がなく、そのために生活環境や健康状態が悪化しても、周囲に助けを求めない状態のこと。認知症などで判断力が欠けていたり、近親者に先立たれたなどの理由で生活意欲が低下していたりといった意図しないでそのような状態になっている場合と、本人自身の意思で意図的に自分を見放している自己放任の場合とがある。
セルフネグレクトの具体例としては、自宅にごみを溜め込んでいる人、窓や壁に穴が開いていたり構造が傾いていたりする家にそのまま住み続けている人、汚れた服を着替えなかったり、失禁しても放置していたりする人、認知症などの病気があっても治療や介護を拒否する人などが挙げられる。社会的に孤立しがちな1人暮らしの高齢者に多いとされるが、セルフネグレクトに陥る原因は様々であり、必ずしも高齢者だけにみられるとは限らない。
認知症やうつ病といった精神的な病気以外の原因は、同居の配偶者や親に先立たれ近隣との付き合いも薄れて孤立したり、なんらかの理由で仕事を失ったり、糖尿病などの慢性的な病気が悪化し身体を動かすのがつらくなったりなど、多岐にわたる。自分の置かれた状況をセルフネグレクトとして自覚している人がほとんどいないため、行政隣近所に支援を求めることもなく、問題が明るみになっていない事例は多いと推測されている。
自ら支援を求めない理由として、判断力の低下、遠慮気兼ね、人に頼りたくないという気持ちや、生活の荒廃を他人に見られたくないという気持ちなどがあるとみられる。
問題を放置すれば、本人の生命にも危険が及ぶため、各自治体では、行政が民間の企業や地域の住民組織などをネットワーク化し、見守り体制をつくる試みが進められている。
2011年3月に発表された内閣府の委託調査の報告書(「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査―幸福度の視点から 報告書」)によれば、全国の地域包括支援センターのうち約6割から回答があり、そのうち7割がセルフネグレクト状態の高齢者を把握していると回答した。市町村や民生委員からの報告件数と合わせて検討した推計数を最大1万2190人としている。

(石川れい子 ライター/2017年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セルフネグレクト」の意味・わかりやすい解説

セルフネグレクト
せるふねぐれくと
self neglect

普通の日常生活を営もうとする意欲や生活能力を喪失し、自己の安全や健康が脅かされる状態となること。とくに高齢者に多くみられる。自己放任と意訳される。必要な飲食をする、体調を維持する、身なりを整える、自分や周囲を衛生的な状態に保つ、金銭を管理するなどの生活意欲と能力が失われ、ときに医療をも拒否するまでになる。また、いわゆる「ごみ屋敷」の中で生活するようになったり、周囲から孤立して孤独死するような事態も招く。本人の意思でそうする場合のほかに、高齢者が軽度の認知症で判断能力の低下をきたしたことが原因という場合もある。

 内閣府の調査では、セルフネグレクト状態にある高齢者は全国で1万人前後おり、そのうちのおよそ80%がひとり暮らしとされる。また、家族と同居していても、周囲との関係が悪化して孤立化するケースも多くみられる。セルフネグレクトに陥る原因としては、病気になる、入院などで地域社会や家族と離別する、家族関係のトラブルを抱える、身内の死に直面する、などがあげられる。地域社会における民生委員など、周囲や身近にいる人による見守り体制や、政府や医療関係者などの協力による法的な整備も含め、孤立に対する支援体制づくりなどが求められる。

[編集部]

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