翻訳|leadership
一般に,問題状況をとらえて課題を提示することによってある集団の行動様式を形態づけ,諸個人をその目標達成に赴かせること。政治指導。そこでは,被指導者の指導者への自発的服従が前提とされ,双方における共通の目的の達成という動機が重視される。それは,人間による人間の制御という広義の事象に含まれるが,その制御の正当性は,意味を付与された課題の妥当性や課題遂行(リーダーのパフォーマンス)の有効性に依存する。
リーダーシップ事象において,古来から関心の焦点となってきたのはリーダーの資質や人格的特徴である。善のイデアを認識し高貴なる〈うそ〉の技能を有する哲人王(プラトン),キツネの狡猾(こうかつ)な操作能力とライオンの威圧的な演技力を兼備した君主(マキアベリ),責任・洞察力・情熱に秀でたステーツマン(M. ウェーバー)などが想起されよう。C.E.メリアムは,政治指導者の人格的資質として,情勢観測力,人格的接触能力,対立する集団利害を調整し統合する能力,劇的表現能力,政策やイデオロギーの構想力,勇気と意思力などをあげ,とくにシンボルを駆使する能力と組織化の能力とを近代的リーダーシップの要件として重視している。もとより,政治には相当な熟練と技能の練達が不可欠であり,指導者たる人物は環境や時代に応じた能力と資質を涵養(かんよう)すべきであるが,リーダーシップは指導者の人格的特性のみに還元しうるものではない。それは,被指導者の欲求や人格的特性,組織の目標や構造,集団を取り巻く諸環境などを含む諸変数間の複雑な関係として展開される。
状況の関数としてのリーダーシップというアプローチは,特定の問題状況のなかでリーダーが台頭してくるのに着目し,その集団状況との関連でリーダーの果たす機能を重視する。これは,近代になって政治権力の正当性基盤が広範な大衆の支持に求められるようになった事実や,また現代の大衆社会化に伴って政治課題が広範かつ複雑なものとなっている状況を反映したものである。さらに,リーダーシップがとりわけ問題的状況においてその隆盛をみる歴史的事実からして,政治指導の本領は,問題解決のための政策形成や意思決定の機能を積極的にひきうけ競争しあうところにあるともいえよう。もとより,政治的リーダーシップにおける決定作成の過程は,具体的な困難の渦中でなされる以上,およそ単純なものではありえず科学的合理性で律しきれるものでもない。
リーダーシップの過程は,課題と対策の提示,リーダーとフォロアーの分化,結束と一体感の培養といった三つの契機からなる複合的な過程である。第1の契機において,リーダーシップは次の三つの機能を担う。すなわち,指導者は権威のある状況定義を大衆や集団に提示し(診断的機能),その規定状況に見合う針路や問題解決に取り組む行動計画を特定し(政策形成機能),そして提示した課題や対策の履行につき集団や大衆の積極的支持を獲得しなくてはならない(動員機能)。状況規定に際しては,指導者の権力的利害関心や価値観(後世意識を含む)が影響し,また過去の経験,とりわけ祖型的な状況(たとえば,戦国時代の下剋上,幕末・明治維新)が引照基準として活用される。支持の動員においては,リーダーシップの説得性が肝要であるゆえに,筋のとおった堂々たる主張ばかりかいろいろな操作の技術が駆使され,ときに偽の情報を流したり,事件を人為的につくり出したりすることもある。
リーダーシップの第2の契機は,リーダーとフォロアーとの関係における分化と価値化である。リーダーは自己の職責を自覚し,制御への服従をフォロアーに要求する。他方,フォロアーはリーダーの権威を承認し服従していく。そこに形成される相互関係は,極限的には信従の形をとり,価値序列のもとに置かれる。こうして,指導者は権力追求的,支配行為的な色彩を帯びてくる。すなわち,指導者は課題の提示というリーダーシップ活動を通じて,政治社会が直面する問題状況に関する大衆の認識を操作し,また争点操作によって大衆の関心を誘導する。そして,その操作された課題に対する解決策もまた,指導者の優位を誇示するために操作される。さらには,自分たちの提示する対策に関し状況への適合性が盛んに宣伝され,解決の見通しの明るさに加えて課題達成後の充足感も説得的に語られる。もとより,指導者は将来の展望のみでなく同時に過去の実績をフォロアーに披露し証明しつづけなくてはならない。そこで,過去における成功は自分たちの功績としてすべて賞賛し,逆に,失敗は他者の陰謀や不可避的事故に帰せられる。こうして,服従や支持の動員の操作対象とされた大衆は,簡潔に特定された物語やスローガンの消費者として指導者に同調しながら,他方で指導者集団からは密かに疎外されていく。指導者は,自分たちが直面する状況の多面性を考慮して,大衆消費用の課題や教義(顕教)から自由に思考活動できる機動性を留保するために,側近者からなる密室組織をつくる。そこでは反対指導者の打倒作戦,権力の演出方針,フォロアーの管理操作の策も練られ,指導し支配する側において大衆の意識とは異なった状況認識や問題意識にもとづく密教が形成される。こうした二重構造の機能的駆使はリーダーシップの成功の確率を高めることに寄与するとしても,他方では,その劇的に強化された顕教の自己展開を制御できなくなる事態をときに出現させたり,あるいは環境適応の主体たる個々のフォロアーを遊離,離反させることにもなりかねない。
第3の契機は,リーダーのもとに一致結束して各自の職責をまっとうする,といったリーダーシップの型である。課題の理想性と今や時が満ちたというタイミングが,フォロアーの使命感を喚起し同一化を推進させるのはもとよりとしても,フォロアーの行動系列の組織化に際しては,前向きの目標の特定化のほかに対外的危機の表象がよく動員される。また,成員の同一化は,リーダーシップ競争におけるアウト・グループの造形と反価値化によっても促進される。課題への感受性が貧困で問題意識の低い,あるいは誤った劣悪な指導のもとにある〈外部の連中〉との対比で,知,徳,意の各面における〈我々〉の優越性が説かれ,そして自分たちの同志愛の崇高さや結束の純粋さが自己充足的に語られる。もっとも,アウト・グループの質的な階層づけに照応して,イン・グループの成員たちも,人間的な鍛錬度や真理への接近度をもとに質的階層的な分布を付与される。個々の人間の個性や自由の要素を完全に排除し抹消することは不可能である以上,ここでも,リーダーやフォロアーの分裂の潜在的傾向は否定しえない。
リーダーシップの類型論に関しては,伝統的,制度的,投機的,創造的リーダーシップといったモデルが有名である。
まず伝統的リーダーシップは,伝統社会に固有なリーダーシップであるが,伝統社会ではリーダーは身分によってその地位につき,慣習や伝統によって支配するのであるから,言葉の本来の意味で,リーダーシップをもつとはいえない。制度的(代表的)リーダーシップは,価値体系の安定した政治社会に成立するリーダーシップで,リーダーは大衆の利益感覚に訴えながら課題の解決を図る。創造的リーダーシップは,危機的状況に際してこれまでの価値体系そのものの変革を図ることにより指導権を獲得しようとするものであり,危機的状況においても,価値体系は変えることなしに,大衆の閉塞した不満を投機的に充足しようとするのが投機的リーダーシップである。制度的リーダーシップの例には,自由主義諸国の民主政治が,創造的リーダーシップの例には,ロシア革命や中国革命のリーダーシップが,投機的リーダーシップの例には,ナチズムやファシズムなどの全体主義的リーダーシップがあげられる。
また,政治社会における政治集団たる政党と他の社会諸集団との関係のあり方に着目したひきい型,まとめ型という政治指導の類型がある。ひきい型の政治指導とは,対象となる諸集団のうち,その一部の利害ないし全体の利害またはイデオロギーを基盤としながら,諸集団間の既存の諸関係の編成替えを志向し,あるいはそうした再編を結果として生ぜしめる政治指導の型である。他方,まとめ型の政治指導とは,社会集団間の既存の諸関係を所与のものとして容認しつつ,そこに噴出する諸集団の利害や要求の交錯を調整せんとする志向,あるいはそれを結果させる政治指導の様式である。この類型においては,ひきい型とは対照的に,カリスマの存在や規律組織の介在はそれほど必要ではなく,むしろ政治指導には調整の後見役が期待されるゆえに,目的性よりも機会性が顕著となり,それだけ視座構造は羅列的なものになる。すなわち,まとめ型政治指導は,争点として浮上してくる諸要求をできるだけ非政治化し,また争点を主体の状況に応じて分断し,個別的,具体的に解決せんとする志向を有している。これらは日本的リーダーシップのあり方を示す特徴的なものといえよう。
→権力 →支配
執筆者:坂本 孝治郎
かならずしも公式のリーダー(管理者,監督者など)だけがいつもリーダーシップをとるのではない。たとえば生産作業中にある機械が故障したとき,その機械に詳しいメンバーが一時的にリーダーシップをとることがある。効果的なリーダーシップはどのようなものかという問題は,社会心理学などの行動科学の分野で研究されてきた。それらによれば,リーダーは集団目標の達成に関心をもつだけではなくて,集団の構成メンバーにも注意を向けているべきである(たとえばマネジリアル・グリッドmanagerial grid理論)。リーダーが集団メンバーに関心をもつ必要性は,(1)メンバーが満足をうるようにすること,(2)メンバーに意欲をもたせること(動機づけ)の二つである。(1)はメンバーを集団に参加させつづける誘因として必要である。(2)の動機づけのためには,(a)メンバー集団(したがって集団目標および他のメンバー)との一体感をもたせ,また(b)〈意欲をもって仕事をすれば報酬(金銭,地位,達成感,能力発揮感など)が得られる〉という期待をもたせることが必要である(〈動機づけ〉の項参照)。しかし,リーダーシップは集団を導く行為であるから,リーダーは単に個々のメンバーの心理に配慮するだけではなくて,全体としての集団の構造とメカニズム(凝集性,集団規範,集団風土,集団の空気など)にも注意を払い,集団目標の達成に貢献する方向にこれらをコントロールしていく必要がある。なお,どのようなリーダーシップが有効かは,集団の仕事の性質といった状況・条件によって変わってくるという条件適合理論の主張もある。最後に,効果的なリーダーシップの能力はどこからくるのかという問題について,先天説と後天説とがある。前者によれば有能なリーダーは見つけてくるしかないが,後者にたてば教育によってつくりあげることができる。いずれが正しいというのではなくて,両面があるといえよう。
執筆者:西田 耕三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
分有された目標・目的に向けて、フォーマルに組織化されたり、インフォーマルに結集した人々の集合的努力を動員する地位を獲得し、その役割を積極的に遂行する行動・過程をいう。集団機能の遂行にあたってある個人が他の人々以上に影響力を一貫して行使する過程であるので、インフォーマルな影響力行使、感情的支配という側面とフォーマルな権威の行使という側面をもっている。
リーダーシップはリーダーとフォロワーとの相互作用ととらえることができる。リーダーの行動がフォロワーの反応を条件づけ、逆に、フォロワーの行動がリーダーの反応を条件づける。歴史は偉大な人物の伝記と同じであると考える「偉人列伝型理論」と、リーダーは歴史の諸力の所産であり進行中の社会過程によってその役割が制限されると考える「文化決定論(状況決定論)」の論争は、それぞれが複雑なリーダーシップ過程の一局面のみを強調したものといえよう。前者はリーダーの特性をもっぱら強調し、後者は状況を強調する。それゆえ、前者はリーダーの個人的特性・価値がフォロワーの必要と願望に適合しなければならないことを見逃す傾向がある。逆に後者は状況を強調するあまり、リーダーのパーソナリティーがときとして決定的意味をもつことを無視しがちである。リーダーシップはリーダーとフォロワーの行動・心性を状況諸力に関連づける構図で考える必要がある。
リーダーシップの機能は、(1)目標の明確化と目標追求の維持、(2)目標達成手段・資源の供給・補給、(3)集団構造の構築と維持、(4)集団行動、相互作用の促進、(5)内部結束とメンバーの充足感維持、(6)欲望の調整、組織活動の促進、である。つまり、統合の論理で「組織内政治」を制御し、抗争の論理が支配する「組織間政治」を組織の代表・シンボルとして展開する。組織解体を阻止するために、リーダーは二つのシステム均衡、つまり対内的均衡(組織内諸要素間の均衡)と対外的均衡(組織と外的状況との均衡)を確立・維持する必要がある。基本的には、「組織の有効性」と「組織の能率」のバランスをとりながら、両者を同時に充足する必要がある(たとえば、組織目的とサブシステム目的との同時的達成努力、思想的純潔の維持と組織拡大の調和、目標および戦術の優先順位確定、権力・権限・ポストの最適配分、インフォーマル組織の最適吸収)。だが、目標達成手段としての組織が目的合理的な機能遂行システムであったとしても、機能遂行の実質的担い手であるメンバーに「組織目標に貢献しようとする」意欲が欠如していると、有効な機能遂行は望めない。組織は目標達成のためにメンバーに犠牲を強要し、見返りとして「誘因」を提供する。一方、メンバーは「誘因」と交換に「貢献」を提供する。組織が適切な誘因提供に失敗すれば、リーダーとフォロワーの協働関係が破産し、目標の変更を要求され、組織は衰退・解体への道を歩む。だが組織資源(対内的均衡・対外的均衡を維持し、目標達成努力に投入できる資源)は有限であり、欲望水準を不断に上昇させるメンバーの要求を完全に充足することはできない。リーダーは、合理的最適点とメンバーの充足点との距離を念頭に置いて、有効性の達成と能率の達成とに限りある資源を配分し、二つの均衡の最適臨界点を模索する必要がある。
リーダーシップは大きく民主的リーダーシップと権威主義的リーダーシップに分類できる。前者は、フォロワーが自分の政策を決定するよう激励し、目標達成手段・技法を事前に説明してメンバーに展望を与え、フォロワーが自己の業務と相互作用を開始する自由を与え、客観的な方法でフォロワーに賞罰を与えるリーダーシップのパターンである。民主的リーダーはフォロワーの行動の自由をできる限り拡大しようとする。そして、フォロワーの自己指導を刺激する傾向がある。一方、後者は、フォロワーのためにそれにかわってすべての政策を決定し、一度に一つずつ目標達成の手段と方策を指令し、フォロワーの行動と相互作用を積極的に指示し、個人的・主観的な方法でフォロワーの力量を評価しようとするリーダーシップのパターンである。権威主義的リーダーはフォロワーの個人的権限と行動の自由を制限しようとする傾向が強い(K・レビン、R・リピットの説)。
どのタイプのリーダーをいただこうと、遂行される仕事量には大差はないが、独創性は前者の場合のほうが発揮されるしフォロワーの満足感も前者の場合のほうが大きい。なぜなら、友愛、自発性、凝集性、団結は民主的リーダーの下で顕在化する特徴であるからである。しかし、生産性の向上を優先させる巨大で業務指向型組織ではメンバーは権威主義的リーダーシップに満足する傾向がある。一方、小規模で相互作用指向型組織では民主的リーダーシップを希求する傾向が強い。
[岡沢憲芙]
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