宴会において主客以外のものが起立し,手にした酒杯をあげて互いに触れあわせ,酒を飲みほすこと。本来は健康を祝する儀礼で,英語でトーストtoastというが,今日では宴会の性質によって乾杯の祝意もさまざまで,全員が起立して行う場合もある。
乾杯は古代に神または死者のために神酒を飲んだ宗教的儀式が起源とみられ,ギリシア,ローマでは食事中に神酒を神にささげ,公の宴会では列席者ならびに死者のために乾杯した。それがキリスト教の時代になってイエス・キリスト,聖母,聖人たちに乾杯する風習にかわり,イギリスでは中世期ならびにその後まで宗教的祈りと酒盛で死者を追憶する風俗として伝わり,それがいつのまにか生きた人間の健康を祝福する乾杯になった。乾杯をイギリスでトーストと呼ぶようになったのは17世紀以後で,R.スティールの《タトラー》紙につぎのような起源説が出ている。チャールズ2世の時代にある美しい女性が鉱泉場の池中に立っていた。そのとき彼女の崇拝者たちの一人が,池の水をくんで彼女のために乾杯したところ,当時はブドウ酒やリキュールにトーストしたパンの小片を入れてにおいをつける風習だったので,そこに居あわせた愉快な酔っぱらいが,自分は酒(池の水を飲むこと)はいやだから池にとびこんでトースト(彼女のこと)を捕らえようといった。この男の言葉がおもしろかったので,その後評判の美人をトーストと呼び,同時に女性の健康のために乾杯することもトーストと呼ばれるようになったという。さらに一般の乾杯のときに杯を触れあうのは,昔は客に酒をすすめるとき,毒の入っていないことを証明するため客の杯と同時に主人の杯にも酒を注いで,主客が同時に杯をとって飲む習慣だった。それがいつのまにか親しい者同士の間でいっしょに杯を手にし,それを触れあわせて飲みほす習慣になったといわれる。
→盃事
執筆者:春山 行夫
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宴会などで喜ばしいことや、健康、繁栄などを祝って酒杯を触れ合わせ酒を飲み干すこと。本来は宗教的な行事で行われた儀礼である。一気に飲み干すといわれているのは昔、獣角、貝殻などの不安定な酒器を用いたためである。宴会の席で乾杯の音頭をとるのは長老がよい。そのときのことばや方式は各国の習慣、しきたりによって異なる。公式の宴会の場合はデザートのあと、または挨拶(あいさつ)の前に行う。しかし結婚披露宴や私的な宴会の場合は食事のコースの前に行うことが多い。飲み物はその食事によって異なるが、洋食の場合はシャンパンが多い。しかし各国それぞれの料理にあわせた酒を使う。
乾杯のときのことばとして、イギリスでは、トーストtoastというほか、プロージットprosit(慶祝のとき)、チェリオcheerio(別れのとき)と使い分ける。フランスでは、ブラボーbravo(賞賛)、ア・ボートル・サンテà votre santé(健康を祝す)といって乾杯する。このように民族の風習や慣習によりさまざまな違いがある。一般的な乾杯の仕方は、右手でグラスの上部を持ち、起立してから杯をあげるようにする。乾杯といっても一挙に飲み干す必要はない。
[石川朝子]
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…出棺に際し死者との決別のため日常行わない方法で別れの酒を飲んだり(ワカレノオミキ),食べ物をたべたり(デタチノゼン)する地域がある。現在宴会において主客以外が起立して互いに杯をあげてふれあわせ酒を飲みほして祝意を示す乾杯が広く行われている。【植松 明石】。…
※「乾杯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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