盃をとりかわしそれによって約束をかためること。酒はもとはハレの飲みもので,神祭に際して醸され,ひとつ盃を大勢で飲みまわして神霊と人,人と人を結合させたり,その結合を強化,確認するためのものであった。やがて人間相互の緊密な関係の誓いに際しても盃事が行われるようになった。近世以来酒を飲む器として猪口盃が普及しめいめいの盃で酒を飲むようになったが,正月の屠蘇(とそ)や婚姻の際の盃事ではまだ同じ盃で飲みかわしており元の意義を残している。宴会などでみられる猪口盃の献酬(けんしゆう)もこの飲みまわしのなごりとされている。
盃事は婚姻成立において重要な要件である。婚姻は当事者個人の問題であると同時にその属する集団間の問題でもあり,新しく個人あるいは集団間に社会関係をつくる重要な契機となることから,婚姻成立に際しさまざまの意味をもつ盃事が行われるのである。まず婚姻の約束のため婿が嫁方に行き嫁方の親族とテジメノサケ,キメザケなどといわれる固めの酒をとりかわす。婚姻初期に妻訪いする方式をとる地域では,この盃事が婚姻成立を意味し,以後実質的婚姻関係が開始される。また入家儀礼として嫁が台所口でとくに婿の母(しゅうとめ)と盃をとりかわすトボウサカズキの慣行は種々の変異をみせながら各地に存在する。そして続いて行われる親子盃,親類盃などはいずれも婚姻当事者同士の盃事ではない。当事者間の女夫(めおと)盃は今日三三九度の盃とよばれ婚姻儀礼の中心とされるが,かつてはこうした女夫盃,床盃のような当事者間の盃事は意外に少なく,むしろ婚姻当事者とそれぞれの親族,とくに嫁と婿の親や親類との盃事が中心となっている。沖縄では酒ではなく水を用いるミズモリもある。
盃事は擬制的親子関係をむすぶときにも行われる。幼児期にみられる養い親,拾い親,成人元服に際しての烏帽子親,婚姻の際の仲人親,鉄漿(かね)親,外来者が村入りに際してとる草鞋(わらじ)親などいずれも親子の盃事をともなっている。また盃事は若者組や宮座などへの加入に際してもみられる。これらの年齢集団や祭祀集団への加入は同時に村の一人前としての成人儀礼の意味も強く,加入に際して,その集団内規定の順守と成員としての連帯を求めて盃がとりかわされる。やくざ,てきやなどへの加入に際しても同様の意味から盃事がみられる。酒と同様の機能は同じ火で料理した食物をたべることによっても達成されると考えられ,花嫁,花婿がひとつわんに盛った飯(タカモリメシ,ハナツキメシ)や一匹の魚をたべあう地域もある。
盃事は逆に関係分離のときにもみられる。出棺に際し死者との決別のため日常行わない方法で別れの酒を飲んだり(ワカレノオミキ),食べ物をたべたり(デタチノゼン)する地域がある。現在宴会において主客以外が起立して互いに杯をあげてふれあわせ酒を飲みほして祝意を示す乾杯が広く行われている。
執筆者:植松 明石
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
杯を取り交わしながら酒を飲むこと。かつては、酒は神事に際して飲むものであったので、約束事を固めるために杯を取り交わす意味にもなった。とくに日本の婚礼儀式で、三三九度の杯を取り交わして夫婦の契りを結ぶ。それ以外の約束の固めにも、しばしば杯事が行われる。たとえば、侠客(きょうかく)仲間などは、杯に須恵器(すえき)を用い、杯を交わしたのち、それを割り捨てて契約を絶対化する風習もある。『古事記』の大国主命(おおくにぬしのみこと)の神話においても、須勢理毘売(すせりひめ)が正妻になる際、杯を献じ、「盃結(うきゆい)して頸懸(うなかけ)りて、今に至るまでしずまります」と歌っている。杯を取り交わして結婚の誓約とすることを盃結といい、男女が仲むつまじく互いに肩を組むことを頸懸りとよんでいるのである。沖縄の婚礼で、新郎新婦が同時に一つの杯から酒を飲む慣習があるが、台湾の高山(こうざん)族(高砂(たかさご)族)では兄弟の契りを結ぶときに、やはり抱き合って一つの杯で2人で酒を飲む。
[村田仁代]
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