原生動物の繊毛虫類や,後生動物の繊毛上皮など,真核細胞の表面に生えている運動性の細胞器官である。複数形はcilia。これに似たものに真核細胞の鞭毛があるが,繊毛の方が細胞1個当りの数が多く,長さが短いのが普通である。また両者の運動の様式も異なっている。しかし基本的な構造にはほとんど差がなく,じじつ鞭毛も疲労してくると繊毛のような運動を示すようになる。またウニ胚の繊毛などは細胞1個当り1本で長さも100μmをこえるが,その運動様式は典型的な繊毛の運動である。繊毛や鞭毛は図2に示したように,いわゆる9+2構造をしている。繊毛の直径は0.2μmほどで,長さは数μm~数十μmである。ただしクシクラゲ類の櫛板(くしいた)の繊毛などは数千本の繊毛よりなる複合繊毛で,長さも何mmかに達する。繊毛は細胞表面下で基粒体(基底小体)につながり,さらに細長い繊維状の根小毛を出している。感覚細胞の中にも一種の繊毛をもつものがあるが,中心対微小管を欠いており運動性もない。繊毛の運動はほぼまっすぐなままで打つ有効打と,根本の方から徐々に屈曲が先端に伝わりながら反対方向に打つ回復打よりなる。繊毛が打つ面は中心架橋に垂直な面にほぼ一致する。軟体動物のえらや,脊椎動物の気管支や輸卵管などでは,水や粘液の流れが有効打の方向に生じ,ゾウリムシなどでは虫体が反対方向に移動する。有効打の方向は種々の刺激によって逆転することもある。多数の繊毛が列をなして並んでいる場合には,各列の繊毛が少しずつ位相をずらして打ち,全体として波状の繊毛波を生ずる。繊毛運動のしくみとしては,隣り合ったダブレット微小管同士が,ダイニンよりなる腕の働きによって互いに滑り合うことが基本になっていると考えられている。
執筆者:毛利 秀雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
繊毛虫類の体表および後生動物の繊毛上皮自由表面にある、直径約0.2マイクロメートル、長さ数マイクロメートルから数十マイクロメートルの運動性の細胞小器官。基本的構造は真核細胞の鞭毛(べんもう)と同じであるが、運動形式が異なる。細胞膜の延長である繊毛膜が軸糸を原形質とともに包んでいる。軸糸は、通常9本の円形に並ぶ周辺小管と、2本の中心小管よりなる。中心小管は通常の微小管でいわゆるシングレットsingletであるのに対し、周辺小管はおのおの2本の微小管がその側壁の一部を共有した形のダブレットdoubletである。周辺小管の側壁より約22.5~24ナノメートルの規則正しい間隔でダイニン腕(ATPアーゼ作用をもつダイニンというタンパク質で構成される)を突出する。軸糸は細胞膜下で、中心小体と相同の基底小体に連続している。基底小体からは毛小根が伸び、細胞膜や核に付着することが多い。
繊毛上皮は水生下等動物や幼生の体表、二枚貝のえら、哺乳(ほにゅう)類の気管、輸卵管、脳室などにみられる。側線器、平衡受容器などの感覚細胞にも繊毛と相同の構造があり、広い意味で繊毛とよばれる。繊毛虫類の棘毛(きょくもう)や波動膜、クシクラゲの櫛板(くしいた)などは、多数の繊毛が集合、癒着した複合繊毛である。
[馬場昭次]
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