繊毛の行う能動的運動をいう。繊毛は、基部に屈曲が生ずることによる振り子型の運動(有効打)と、この屈曲の繊毛先端方向への伝播(でんぱ)を伴う逆向きの運動(回復打)を行う。この一連の運動は繊毛打とよばれ、普通、毎秒数回から数十回の頻度で繰り返される。刺激に反応して繊毛打の向きを変えたり(繊毛逆転)、急停止したり、頻度を変えたりするものがある。これらはホルモンや神経の支配を受けている場合があり、ムラサキイガイのえらの側繊毛やカエルの口蓋(こうがい)内表面の繊毛では神経支配が確かめられている。
繊毛運動は周囲に水流をおこす。また微小な個体に遊泳のための推進力を与えたり、気管上皮などでは粘液層を移動させる。これにより繊毛虫や幼生の遊泳、二枚貝類、原索動物の濾過(ろか)摂食、ウニ類やクラゲ類の体液循環、腎管(じんかん)、細尿管、生殖輸管などでの排出物や生殖産物の移送、呼吸道の清掃に役だつ。筋収縮と比較すると、繊毛運動では、細胞体や組織の大掛りな変形を伴わずに効果を生ずるのが特徴である。多数の繊毛が運動する際には、多くの場合、隣接する繊毛の動きの間に一定の位相のずれがみられるため、全体として規則正しい波が伝わっていくようにみえる。これを繊毛波または継時性波という。繊毛運動の原動力は、ATP(アデノシン三リン酸)を直接のエネルギー源とする繊毛軸糸の周辺微小管相互の局所的滑りにあるとされる。しかし、一次元的な滑りが二次元ないし三次元的屈曲運動に変換され制御される機構には不明の点が多い。
[馬場昭次]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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