書籍や雑誌を所有者がデジタルデータ化し、電子書籍をつくること。ファイル交換ソフトにおいて流通していた、著作権侵害を前提としたコミックスのスキャンデータ作成に端を発するアンダーグラウンドな隠語である。「自炊」という呼称の由来としては、自分で材料(書籍)を用意し、調理(データ化)までする作業を炊事作業に擬した説や、音楽CDやソフトウェアのメディアからデータを抜き出す作業を「吸う」とよんでいたため、それに自らがデータをつくること組み合わせて「自吸い」とよびそれが転訛したという説がある。タブレット端末や電子ブックリーダーなどの電子書籍の閲覧機器が急速に普及する一方、権利や契約などの整備の遅れから、電子書籍化される日本語のコンテンツが少ないため、また省スペースや持ち運びの際の便利さという観点から、コミックスのみならず一般の書籍においても自炊の動きが広がった。具体的な作業の流れは、本を綴(と)じている背の部分を裁断して解体し、ばらばらにしたページをイメージスキャナーで読み取り、データ化するのが一般的である。また、専用の裁断機や書籍を分解せずに読み取りを可能にしたスキャナーも販売されている。自炊したデータを電子書籍として閲覧、保存、管理するパソコン用ソフトウエア、携帯端末用のアプリやインターネットを通じたクラウドサービスも出現している。
2011年(平成23)ごろから、このような電子化の作業を請け負う代行業者が急増し、自炊代行サービス、スキャン代行サービス、スキャニング代行サービスなどの名称でよばれている。書籍や雑誌を電子化する行為は、本の持ち主が個人的に楽しむための私的複製である場合は著作権上の問題とはならない。しかし、スキャンされた本やデータの転売・譲渡が横行し、人気小説の海賊版電子書籍が海外ウェブサイトで販売されるといった違法行為も増え、作家が訴訟を起こすケースも出ている。電子書籍の無許可流通を防ぐ対策として、出版社に新たな出版物原版権を与える案が検討されている一方、自炊代行業者側は、2013年6月に日本蔵書電子化事業者協会を設立し、作家や出版社の利益を損なわない配慮をしたルールの策定を進めている。
[編集部]
出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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