闇サイト殺人事件(読み)やみさいとさつじんじけん

知恵蔵 「闇サイト殺人事件」の解説

闇サイト殺人事件

2007年に愛知県名古屋市内で起きた強盗殺人事件。犯罪者を募集する携帯電話のサイトで知り合った犯人3人が、通りがかりの女性を襲撃したことから、闇サイト殺人事件と通称される。この事件で無期懲役となって収監されていた犯人の1人は、この事件前にも、愛知県碧南市でのパチンコ店長夫婦殺害事件や名古屋市での強盗殺人未遂事件を仕事仲間らと共謀して繰り返していた主犯であることが発覚し、15年12月に地裁の裁判員裁判で死刑が言い渡された。
犯人たちは、「闇の職業安定所」と称する、携帯電話の犯罪者募集サイトで出会った。きっかけは川岸健治が闇サイトに投稿したことで、これに応じた前科のある神田司、碧南市の強盗殺人事件の主犯であった堀慶末及びY.Hの4人で犯罪グループを結成し、次々と悪事を企んでいた。このうちY.Hは、犯行前日に同グループが事務所荒らしに失敗し、逃亡する際に置き去りにされ、ほとんど無一文で途方に暮れ、犯行をエスカレートさせる他3人に恐れをなして、本件発生の前に警察に自首していた。しかしながら、犯人グループは互い面識がほとんどなく、警察は彼らを捕捉する有効な手立てを打てなかった。
事件当日の8月24日、通行人を襲撃し金品を奪おうと3人が徘徊していたところ、帰宅途中の被害者がたまたま午後10時頃に付近を通りかかった。被害者は、名古屋市在住で当時31歳の派遣社員の女性。グループは被害者を車に引きずり込んで岐阜県の山中に連れ去り、脅してキャッシュカードの暗証番号を聞き出した。更に、被害者に顔を見られていたことから、頭部ハンマーで数十回も執拗に殴打し、命乞いをする被害者を尻目に、ビニールひもで絞殺した。
番号が違っていたため預金を引き出せなかったことから、夜にも再度犯行計画を話し合うとして未明には解散。午後になって、量刑の軽減を目論んだ川岸が警察に出頭し罪を告白し、残る2人も逮捕された。犯行グループの処罰について永山基準との比較などが議論されたが、残虐な手口に対し極刑を求める世論が沸き上がった。法廷では、3人が互いに主犯は相手だとののしり合うなどしたが、判決は神田と堀に死刑が言い渡された。川岸は首謀者ながらも「死刑になりたくない」ことを事由に自首したことから罪一等が軽減され無期懲役とされた。川岸は公判中、殊勝なそぶりを見せていたが、極刑を免れるや否や「被害者は運が悪かった。ばれなきゃいい。生かしてもらえてよかった」などと放言した。神田は一旦控訴したが、これを取り下げ、15年6月に死刑が執行された。控訴審は川岸と堀について行われ、両名に無期懲役が言い渡された。上告審は堀だけで争われ、当時は碧南市の強盗殺人などが発覚していなかったこともあり、無期懲役が確定した。
携帯電話のサイトに始まる特異な犯罪グループであることや、何の落ち度もない女性に無差別に牙をむく、さして若くもない男たちの余りにも無軌道な犯罪、悔いている様子も見せない心性などが、度し難い犯罪として社会を震撼(しんかん)させた。また、犯人はそろって無職や不安定な職にあり、著しい貧困から「闇の職業安定所」を利用するという捨て鉢な行動に走ったのではないかとも評されている。彼らの犯罪は容認することは全くできないが、将来に何らの展望を持ちえない陰惨な状況が、犯行の背景に存在したことにも真摯(しんし)に目を向けるべきであるとする識者もいる。

(金谷俊秀 ライター/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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