ヤブマオ(読み)やぶまお

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤブマオ」の意味・わかりやすい解説

ヤブマオ
やぶまお / 藪真苧
[学] Boehmeria japonica (L.f.) Miq. var. longispica (Steud.) Yahara
Boehmeria longispica Steud.

イラクサ科(APG分類:イラクサ科)の多年草。低山地の藪(やぶ)に生える真苧(まお)(ナンバンカラムシのこと)の仲間なのでこの名がある。茎は数本固まって出て高さ1.5メートルに達し、繊維質で硬く、ときに中部で短い枝を分けることがある。葉は柄(え)があって対生し、卵円形で長さは柄を除き7~20センチメートル。縁(へり)には重鋸歯(じゅうきょし)があるが、鋸歯の大きさや密度には大きな変異がある。葉の両面には粗い軟毛がある。花序葉腋(ようえき)について雌雄別となり、雄花序は茎の中部から出て円錐(えんすい)状、雌花序は上部から出て穂状となるが、雄花序が出ないことも多い。受精しないで種子をつくる無融合種子形成を行う三~五倍体が知られるが、有性生殖を行う型は知られていない。北海道から九州の低山地に分布し、国外では東アジア暖温帯に広く分布する。中国名は野線麻という。本種は有性生殖を行う他の種と盛んに交雑するため、近縁種との区別はきわめてむずかしい。九州北部には葉の鋸歯が粗く花序が細いものが多くみられ、トガリバヤブマオB. japonica (L.f.) Miq. var. japonicaというが、学名はこちらの方に早くつけられた。ヤブマオ属は世界に100種近くを含むが、とくに東アジアの温帯域では無融合種子形成を行う変異の大きい種が多く存在するために分類はむずかしい。

[米倉浩司 2019年12月13日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ヤブマオ」の意味・わかりやすい解説

ヤブマオ
Boehmeria japonica(L.f.)Miq.

西日本の低い山地や平地の路傍に生えるイラクサ科の剛壮な多年草。繁殖力が旺盛で,雑草的な植物である。草丈は1~1.7m。茎は一株からたくさん出て叢生(そうせい)し,密に毛があり,頑丈である。葉は対生し,卵円形で長さ5~15cm。葉縁には粗い重鋸歯があり,葉裏は柔らかい密毛でおおわれている。通常雌花しかつけず,受粉をせずに種子を作る変わった性質がある。この性質は無配生殖と呼ばれる。雌花の花被片は2枚あり,長さ1mm程度で互いに合着して子房をつつみこんでいる。葉腋(ようえき)から出る穂状花序につく。花期は7~8月。果実は9月に熟し,12月ころまで穂についている。本州,四国,九州に分布するが,中部以北では少ない。朝鮮,中国大陸西部,台湾にも分布する。

 ヤブマオ属Boehmeria(英名false nettle)は世界中の熱帯および温帯域に分布し,約100種がある。とくにアジアに種類が多く,日本には30種ほどが知られている。その多くは無配生殖をする性質を持ち,変異に富んでいて分類が難しい。繊維植物として知られるチョマB.nivea(L.)Gaud.var.candicans(一名ラミー)もこの属の植物である。クサマオB.nivea ssp.nipononivea(Koidz.)Kitam.はチョマとは同一種だが,葉形や毛の性質がちがうので別亜種として区別されている。西日本の低地の路傍にごく普通の雑草である。葉裏に白いくも毛があるので,ヤブマオ属の他の種とは容易に区別できる。ラセイタソウB.biloba Wedd.は東北,関東,東海地方の海岸の岩場に普通にみられる日本特産の種で,草丈50cm程度のやや小型な植物である。葉は非常に厚く葉縁の片側につの状の突出部がある。アカソB.sylvestrii(Pamp.)WangとコアカソB.spicata Thunb.は山地性の種類で,葉や茎の毛は非常に少なく,茎が赤みを帯びる特徴がある。アカソは葉の先が三つに裂ける点が特徴で,コアカソはヤブマオ属の他の種とちがって枝をうつ低木となる。

 クサマオ,ヤブマオ,アカソは,第2次世界大戦前や戦時中には繊維をとるために利用された。茎が赤みを帯びるアカソに対して,他の種類はアオソと呼ばれたこともある。またヤブマオ属の植物の若芽は,食用とされることがあるがまずい。クサマオの根は苧麻根(ちよまこん)の名で,解熱や止血に使われる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ヤブマオ」の意味・わかりやすい解説

ヤブマオ

イラクサ科の多年草。日本全土,中国の山野にはえる。高さ1m内外,葉は対生し,卵形で先がとがり,縁には大きな鋸歯(きょし)がある。夏〜秋,葉腋から細長い花穂を出す。花は単性で,上部の花穂は雌花から,下部の花穂は雄花からなる。雌花は筒状の花被に包まれ,小型の果実を結ぶ。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報