植物崇拝(読み)ショクブツスウハイ

デジタル大辞泉 「植物崇拝」の意味・読み・例文・類語

しょくぶつ‐すうはい【植物崇拝】

特定樹木・森・草などに霊が宿っていると信じ、これを信仰・崇拝すること。また、その祭儀

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精選版 日本国語大辞典 「植物崇拝」の意味・読み・例文・類語

しょくぶつ‐すうはい【植物崇拝】

〘名〙 特殊な樹木、森、草、草原霊性が宿るとして、それを信仰崇拝すること。また、その祭儀。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「植物崇拝」の意味・わかりやすい解説

植物崇拝
しょくぶつすうはい

樹木をはじめ食用・飲用植物に至る広範囲な植物への宗教的態度をさす。これらは神話に代表される観念の世界で語られることもあれば、儀礼という顕在化した姿に表出する場合もある。たとえば『三国遺事』には、古朝鮮の始祖檀君(だんくん)の父にあたる桓雄(かんゆう)が、神檀樹の下に降臨したという神話が載っている。こうした樹木信仰の最たるものは世界樹の信仰であろう。アルタイの神話では、大地のへその上、万物の中心にもっとも高いモミの巨木がそびえ、最高神の住居にまで達していると語られている。さらにシベリア・タタールの神話では、地下界にも同じような世界樹があるとされ、サハヤクート)の場合、世界樹が生命の息吹を与える性格を有している。この生命の樹(き)に関する観念は古くから存在しており、『旧約聖書』、インドの『リグ・ベーダ』、イランの伝説と広い分布をみせている。現代アフリカでもヘレロの人々は生命の樹の信仰をもちヌエルやサンダウェの社会でも、人間の始祖が1本の樹から生まれたと考えている。

 一方、ドイツの民族学者イェンゼン(1899―1965)がハイヌウェレ型と名づけ、殺された神の死体から作物が発生したという神話も、起源を説くという意味では植物崇拝の一部とみなしてよかろう。ニューギニアのマンド・アニム人の間ではバナナとココヤシが、セラム島のベマーレ(ウェマーレ)人、南アメリカのウィトト人、南カリフォルニアのネイティブ・アメリカンの社会でも、有用植物の発生が儀礼を伴って表現されている。

 農耕儀礼との関連も見落とせない。日本では、旧正月のころに豊作を祈願して、成熟した穀物や餅(もち)を飾る予祝的な祭り、稲刈りの時期に行う収穫儀礼とが各地でみられる。これらは東南アジアの稲作地帯にも広く分布するが、インドのムンダ人のように、穀物に霊が存在し、しかもそれが逃亡しやすいとする信仰は興味深い。

[関 雄二]

『A・E・イェンゼン著、大林太良他訳『殺された女神』(1977・弘文堂)』

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