環境倫理学(読み)かんきょうりんりがく(英語表記)environmental ethics

知恵蔵 「環境倫理学」の解説

環境倫理学

1960年代以降の環境問題に対応して提唱された学問分野。経済成長に伴う先進国の環境破壊問題は、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』(62年)により一般の注目を集めるようになった。72年にはローマクラブが『成長の限界』を発表し、人口増加と環境破壊が進むことで経済成長の限界に直面すると警鐘を鳴らした。加藤尚武は『環境倫理学のすすめ』(91年)において、環境倫理学の主要な問題を3つに整理している。第1に、自然物に対する人間の生存権を優先することで、自然破壊は正当化されるのかという問いである。この問いに対する批判から、動物を裁判原告とするような「自然物の当事者適格」という自然の生存権を認める考え方が生じてきた。第2に、現在世代は資源浪費により、未来世代の生存可能性を奪ってもよいのかという問いがある。さらに第3として、未来世代の生存を保障するために、現在世代の自由を否認する地球全体主義という新しい全体主義に向かう可能性があると主張する。これら3つの論点を中心に、環境の持続可能性や人間中心主義批判をめぐる議論が続けられている。

(野口勝三 京都精華大学助教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「環境倫理学」の意味・わかりやすい解説

環境倫理学
かんきょうりんりがく
environmental ethics

地球規模の環境破壊をいかに防止するか,あるいはエコロジー運動根底を支える思想的基盤として生じた倫理学。その基本的な考え方は,地球上のすべての物質生物は,相互影響関係にありながら生存権を有するものであるとする自然生存権の尊重,そしてその生存権を未来世代へと継承する責任を負うべきであるとする世代間倫理の問題,さらに地球資源は有限であるから,現世代は未来世代の生存可能性の保障に優先権を与え,計画的に資源を利用すべきであるとする地球全体主義の3点である。そこには単に自然破壊を批判するのみならず,人間の生存のあり方そのものの問題も提起されている。

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