選手制度(読み)せんしゅせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「選手制度」の意味・わかりやすい解説

選手制度
せんしゅせいど

学校その他の団体が、各種のスポーツ競技において、対外試合に勝利を収めたり、記録を伸ばしたりすることを目的に、一部の優秀な技能の持ち主を集めて、特別に厳しいトレーニングを課する制度。企業などにも広く普及しているが、そのあり方をめぐって、とかく賛否議論が生ずるのは、主として中学校段階以上の学校に関してのことが多い。

[井上治郎]

歴史と現状

学校における選手制度は、学校スポーツの歴史とともに古いが、それが中等学校以上の学校に広く定着したのは、1900年代以降のことである。また、現行の学校制度の発足後では、64年(昭和39)の東京オリンピックが、それをさらに促進する役割を演じたといえる。

 大学や高等学校では現在、ほとんどありとあらゆるスポーツや競技に関し、多かれ少なかれ選手制度が行われているし、中学校でも、おしなべて種類は限られてくるものの、それを採用していない学校の例が、むしろ少ない。その場合、中・高等学校では、教育課程化されたクラブ活動と区別して、課外のスポーツ活動を部活動とよび、これを選手制度のもとに運用しているのが通常である。

[井上治郎]

問題点

スポーツや競技は、ただ単にそれを楽しむだけでは技術の向上を期しがたいし、ことに青少年期にあっては、体育的な活動に集団的に打ち込むことの人間形成に及ぼす積極的な意義は大きい。したがって、その点では選手制度も一概に批判されるべきではないにしても、それには、たとえば、〔1〕学業生活との関係で本末を転倒しやすい、〔2〕場所や用具を独占する結果になって一般の学生生徒のスポーツ活動を圧迫しがちである、〔3〕校友会後援会の金銭的援助に頼ることが多く、学校教育の正常な運営が妨げられるきらいがある、〔4〕その活動が学校の指導責任の範囲を逸脱しかねない、などの問題点があることも否定できない。

[井上治郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「選手制度」の意味・わかりやすい解説

選手制度 (せんしゅせいど)

競争や競技に参加するものを特定の集団や社会から選び出す社会的なしくみをいう。競争や競技は特定の能力における優越性を示そうとする願望にもとづくものであるから,すぐれているものを客観的に選び出し,社会的に承認する競技会制度を必要とする。この場合,集団や地域,国など一定の社会的範囲のなかから優れたものを選んで代表資格を持つことを認め,これらの選手の競争によって最も優れたものを選び出す制度を発達させる。選手制度は競技スポーツにおいてとくに顕著にみられ,発達している。日本のスポーツ選手制度は,明治中期における高等学校の対校試合のための学校代表選手の選抜にその萌芽が認められるが,本格的な選手制度の確立の契機は,第5回オリンピック大会(ストックホルム)に参加する代表を選抜するため前年の1911年に行われた予選競技会と,これを運営する大日本体育協会(現在の日本体育協会)の設立であった。大日本体育協会は種目ごとの協会と各都道府県の地域協会の結成を促すとともに,それらを統轄する立場を占め,スポーツの組織化と全国選手権大会などの開催を通じて選手制度の確立に寄与していった。こうして,明治末期から大正の初期にかけてのスポーツの普及を反映して,競技会は対校試合から全国大会に発展し,国際競技会への代表選手の選抜を頂点とする選手制度が成立した。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報