アインハルト(読み)あいんはると(その他表記)Einhard

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アインハルト」の意味・わかりやすい解説

アインハルト
あいんはると
Einhard
(770ころ―840)

フランク王国宮廷学者で、カール大帝の伝記作者。東フランク貴族の家に生まれ、フルダ修道院やイギリスの神学者アルクインのもとでギリシア、ラテンの古典を学び、師の後継者として宮廷学校の教師となり、カロリング朝ルネサンスを推進した。ウィトルウィウスなど建築学の古典にも通暁し、アーヘン王宮の設計を指導したほかに、カール大帝の政治上の助言者としても活躍し、ローマ教皇への使節も務めた(806)。続くルイ1世(敬虔(けいけん)帝)の信任も厚く帝の長子ロタール1世の教育をゆだねられ、俗人の身でいくつかの大修道院の院長に任命された。敬虔帝と息子たちの抗争に巻き込まれるのを避け、830年ゼーリゲンシュタットに隠退、『カール大帝伝』Vita Caroli Magniを執筆した。本書はスエトニウスの『ローマ皇帝伝』に範をとり、カロリング朝ルネサンスを代表する作品として後世に大きな影響を与え、また彼の残した多くの書翰(しょかん)とともに、この時代の政治史の重要な史料でもある。

[平城照介]

『国原吉之助訳『カール大帝伝』(『世界文学大系66 中世文学集2』1966・筑摩書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「アインハルト」の意味・わかりやすい解説

アインハルト
Einhard
生没年:770ころ-840

《カール大帝伝Vita Caroli Magni》の著者。ラテン名エギンハルドゥスEginhardus,フランス名エジナールEginhard。マイン峡谷の名家の生れ。フルダ修道院学校をへてカール大帝の宮廷学校に学ぶ。カロリング・ルネサンスの体現者の一人で,アーヘン等の建築監督を行ったためベゼレエルBeseleelと呼ばれた。ルートウィヒ敬虔帝の下で重用され,817年ロタールの師傅(しふ)となるが,父子争いに耐えられず,自ら創設したゼーリゲンシュタットSeligenstadt修道院に入り,ここで没した。《カール大帝伝》は中世を通じて愛読されたが,スエトニウスの《皇帝列伝》等にその表現の多くを借りている。
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百科事典マイペディア 「アインハルト」の意味・わかりやすい解説

アインハルト

カロリング朝フランク王国の歴史家。ラテン名エギンハルドゥスEginhardus,フランス名エジナールEginhard。アルクインの弟子としてカール大帝の宮廷に入り,建築,外交などにも従事。主著《カール大帝伝》は格調高いラテン文でカロリング・ルネサンスの代表作。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アインハルト」の意味・わかりやすい解説

アインハルト
Einhard

[生]770頃.マインガウ
[没]840.3.14. ゼリゲンシュタット
カロリング朝時代のフランク王国の歴史家。カルル1世 (大帝)の信任を得,学校教師のほか,土木建築と外交を担当。ルートウィヒ1世 (敬虔王) ,ロタール1世をも補佐した。主著『カルル大帝伝』 Vita Caroli Magniは,文体は在来のキリスト教文学を模したものであるが,記述の正確さで高く評価されている。古代建築に造詣深く,アーヘン大聖堂の建設を指導。

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世界大百科事典(旧版)内のアインハルトの言及

【カロリング・ルネサンス】より

… カールの治世当初の荒廃した知的環境のもとでは,ラテン的・キリスト教的な古典復興の仕事は,かろうじて古典を保存できた修道院出身の学識ある聖職者の手にゆだねられた。宮廷の周辺には,アインハルトのようなフランク人もいたが,イングランドのアルクイン,イタリアのペトルスPetrus,スペインのテオドゥルフThéodulf(750ころ‐821)のように,外国から招かれた学者が多く,この運動の全西欧的な性格を示している。アイルランドの修道院が正しいラテン語の教育に貢献したこと,〈カロリング朝の小字体〉が16世紀以来活字体ローマ字にモデルをあたえたことも特筆されよう。…

※「アインハルト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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