アスベストによる呼吸器疾患(読み)アスベストによるこきゅうきしっかん(その他表記)Respiratory disease caused by inhaling asbestos fibers

六訂版 家庭医学大全科 の解説

アスベストによる呼吸器疾患
アスベストによるこきゅうきしっかん
Respiratory disease caused by inhaling asbestos fibers
(呼吸器の病気)

①胸膜プラーク(胸膜肥厚斑(ひこうはん)

 壁側胸膜の限局性胸膜肥厚(1~10㎜)で、アスベスト曝露(ばくろ)によって起きる最も早期の病変で、高頻度であることが知られています(図35)。ほとんどの場合、胸膜プラークのみによる症状はみられません。

②胸膜中皮腫(ちゅうひしゅ)

 胸膜から発生する悪性腫瘍で、曝露から時間がたつにつれて発生頻度が高くなります。従来、限局型と呼ばれていた多くの胸膜中皮腫は、単発性線維性腫瘍という別の名称で呼ばれるようになっています。

③アスベスト肺

 アスベストの高濃度曝露によって発症し、胸部画像では両側下肺野に線状・網状陰影が内側から外側に、また下肺から上肺に病変が広がり、進行して蜂巣肺(ほうそうはい)がみられるようになります。胸部X線写真では、特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん)膠原病性間質性肺炎(こうげんびょうせいかんしつせいはいえん)などと類似していることが多く、鑑別が必要です。

 確定診断には、アスベスト曝露の職業歴とともに、組織や細胞診断などによる病理組織・細胞診診断も重要となります。

肺がん

 アスベストそのものによる発がん作用と、アスベストによる肺線維化病変からの肺がんが考えられています。さらに、喫煙アスベストによる肺がん発生のリスクを顕著に高めることが知られ、禁煙はアスベストによる肺がん発生の予防となります。

⑤良性石綿胸水(きょうすい)

 本症は、アスベスト曝露があり、悪性腫瘍結核(けっかく)膠原病などの他の原因がない胸水(多くは片側)で、さらに、胸水発生後3年間、悪性腫瘍が認められない場合に診断され、診断においては除外診断が重要となります。多くは、1~10カ月で自然軽快します。

⑥びまん性胸膜肥厚

 本症は、胸膜の肥厚が少なくとも5㎜以上で、広がりが片側の肺の50%以上、両側の場合は25%以上で、著しい肺機能障害を認める場合に診断されます。

円形無気肺(えんけいむきはい)

 胸膜の癒着や線維化によって起こる末梢性の無気肺で、円形の腫瘤性陰影を示し、下葉背側に好発します。肺腫瘍との鑑別が必要になります。

症状の現れ方

 初期は無症状で、ゆっくりと進行し、労作時呼吸困難(歩行などの労作における呼吸困難)、咳などが生じます。さらに進行すると、安静時呼吸困難が出現するようになります。

検査と診断

 胸部X線写真では粒状陰影、線状陰影、すりガラス陰影などがみられ、胸膜プラーク、アスベスト肺肺がん、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺などの病態、合併症の有無により陰影が異なります。

 診断はアスベスト曝露歴が重要ですが、不明な場合でも喀痰、気管支肺胞洗浄液、組織中のアスベストの存在の証明(図34)などで診断します。胸膜中皮腫の診断において、胸水中のヒアルロン酸値(10万以上/ml)は診断価値が高く、有用です。ただし、胸水中のヒアルロン酸値が軽度の上昇を示すことは、中皮腫以外の他の疾患でもよくあることで、注意が必要です。

治療の方法

 根本的な治療はなく、呼吸不全に対する酸素療法、去痰薬投与などに加えて、喫煙は肺がんの発生を高頻度とするため、禁煙が重要です。また、合併症として発症する肺がんの外科的治療が重要であり、早期に発見する必要があります。

 悪性胸膜中皮は早期に発見することが困難で、外科的治療の適応例が少ないのが現状です。進行した肺がん、また胸膜中皮腫は抗がん化学療法の適応となりますが、予後は決してよくはありません。

 なお、石綿に関連した健康被害の補償制度があり、本症が疑われる場合、また診断を受けた場合などには考慮すべきです。

関連項目

 間質性肺炎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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