改訂新版 世界大百科事典 「アゼフ」の意味・わかりやすい解説
アゼフ
Evno Fishelevich Azev
生没年:1869-1918
ロシア革命運動史上最大の挑発者。グロドノ県のユダヤ人小商人の子。ロストフ中学卒業後,革命的サークルに関係したが,逮捕をのがれ国外へ出て,1892年カールスルーエの工業学校に入学した。6年間在学するうちにロシア保安部に協力を申し出て,留学生についての情報提供者となった。卒業後帰国し電気技師として働きつつ,エス・エル同盟に入り,1901年その代表セリュークに付き添い国外でエス・エル党結党の交渉をまとめた。03年ゲルシューニ逮捕ののちエス・エル党戦闘団のキャップかつ党中央委員となり,同団の最大の行動であった内務大臣プレーベの暗殺と皇帝の伯父セルゲイ大公の暗殺を成功させた。彼の最後の行動は08年の皇帝暗殺作戦であったが,これは実行者の動揺で成功しなかった。アゼフの当局とのつながりを告発したブールツェフV.L.Burtsevは,名誉を毀損したとしてエス・エル党の審問をうけたが,元警保局長ロプーヒンA.A.Lopukhinの言葉が伝えられるに及んで,逆にアゼフの正体が暴露されることになった。アゼフは最後の瞬間に逃亡して党による処刑を免れ,ベルリンで株式仲買人として生涯を終えた。その内面は複雑怪奇であった。
執筆者:和田 春樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報