アナバシス(読み)あなばしす(英語表記)Anabasis

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アナバシス」の意味・わかりやすい解説

アナバシス
Anabasis

別名『一万人の退却』。ギリシアの歴史家クセノフォンの記録文学。「内陸行」の意。ペルシア王子キュロスが兄のアルタクセルクセス2世に謀反の軍を起し,ギリシアの傭兵をつのった際に著者自身参加して,キュロス軍の「内陸行」とギリシア傭兵軍の退却を記録したもの。バビロンに近いクナクサの戦いにキュロスが倒れ,ギリシアの将軍たちも奸計によって殺され,1万人のギリシア兵士は絶望状態に陥った。このとき著者が指導者になって軍隊を再編成して敵の手を逃れて退却を開始し,北進して厳寒アルメニアを通って黒海沿岸に達し,ここから西進してついに地中海にいたり,おりから対ペルシア戦を企てていたスパルタの将軍チブロンの手に全軍をゆだねた。この作品は前5世紀末のギリシア人重装兵の訓練と自律性についての貴重な証言であるとともに,アルメニア地方や黒海沿岸の住民,風俗,地誌についても,幾多の明快な記述を含んでいる。

アナバシス
Anabasis

(1) 前 401~399年クセノフォンたちのギリシア傭兵隊が反乱を起したキュロス (小)とともに,アケメネス朝の王アルタクセルクセス2世 (キュロス〈小〉の兄) のペルシア軍と戦った遠征帰還をいう。クセノフォンの著作『アナバシス』がある。 (→クナクサの戦い ) (2) 前 334~324年アレクサンドロス3世 (大王)が行なったエジプトイランインドにいたる大遠征をいう。2世紀の歴史家アリアノスはこの史実に基づいて『遠征記 (アナバシス) 』を書いた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アナバシス」の意味・わかりやすい解説

アナバシス
あなばしす
Anabasis

紀元前370年代に書かれたクセノフォンの代表作。全7巻。『大陸行』と訳される。前401年にリディア太守キロスが兄のペルシア王に対して企てた反乱に参加した約1万人のギリシア人傭兵(ようへい)の従軍記。キロスの死後、ギリシア人がクセノフォンの指揮下にアルメニアを横切り、6か月かかって黒海南岸に退却する経緯叙述が中心で、そのため『一万人の退却』とも訳される。小アジアの地誌としてまた傭兵軍の組織や心理を知るための史料として貴重である。

[篠崎三男]

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