アマモ(読み)あまも

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アマモ」の意味・わかりやすい解説

アマモ
あまも / 甘藻
[学] Zostera marina L.

代表的な海産顕花植物。ヒルムシロ科アマモ亜科、またはアマモ科(APG分類:アマモ科)とされている。別名アジモモシオグサ藻塩草)、リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ竜宮乙姫の元結の切りはずし)。砂泥質の浅い海底に生え、大きな群落(藻場(もば))をつくる。多年草で、根茎は横にはい、節から短枝を出して葉をつける。葉は細く扁平(へんぺい)なリボン状で長さ0.5~1メートル、幅3~7ミリメートルあり、基部は葉鞘(ようしょう)となる。花期は本州では4~5月。根茎の先端から葉と多数の花序とをつける枝が水中に立ち上がり、水面近くで開花する。花序は葉鞘に包まれ、長さ約10センチメートル、扁平な軸の片面だけに、雄しべ雌しべが交互に並ぶ列が2列つく。軸の裏面には何もない。雄しべは2個の無柄の花粉嚢(のう)(半葯(はんやく))からなる。花粉は糸状で、長さ1~2ミリメートルある特異なものである。雌しべはただ1個の心皮からなり、二又に分かれた細い花柱をもつ。開花時には花柱が葉鞘のすきまから外に出て、ここに糸状花粉が巻き付く。種子楕円(だえん)形で種皮は硬く、中に胚乳(はいにゅう)はなく、胚軸が肥大して貯蔵器官となっている。根茎に甘味があるので甘藻(あまも)の名がある。世界の北半球の温帯から寒帯に広く分布し、ベーリング海の氷の下にも生えている。

 アマモの群落内にはいろいろなプランクトン、小動物、稚魚稚貝などがすみ、一種の魚礁としての役割がある。しかし増えすぎると海水が汚れ、かえって漁業の妨げとなることがある。葉の切れ端が波で岸に打ち上げられて大量に堆積(たいせき)することがある。昔、これを集めて肥料としたり、屋根葺(ふ)き材料としたり、クッションの詰め物や敷き藁(わら)として利用する所があった。アメリカ先住民のなかには、若芽や葉の基部を野菜のように食べる部族がある。日本では昔、アマモをほかの海藻とともに砂浜に積み上げ、これに何度も海水をかけて乾燥させたのち、焼いてその灰から塩をつくったという。「藻塩(もしお)焼く」とはこのようなことをさすと思われる。

 同属のコアマモZ. japonica Aschers. et Graebn.は湾の奥や川口の干潟(ひがた)など、干潮時には干上がるような浅い海底に群落をつくる。葉は細長く、長さ10~40センチメートル、幅1.5~2ミリメートルである。花序も小さく長さ約2センチメートルで、花序軸の縁に鱗片(りんぺん)状の葯隔(やくかく)付属突起があることがもっとも著しい特徴である。アマモ属は約11種、全世界の寒帯から熱帯まで分布。

[山下貴司 2018年10月19日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アマモ」の意味・わかりやすい解説

アマモ(甘藻)
アマモ
Zostera marina; eelgrass; wrackgrass

ヒルムシロ科の多年草。北海道から九州,中国,ヨーロッパ,北アメリカに広く分布し,浅海の泥土上に群生する海産種子植物で海藻ではない。横にはう細長い根茎の節から茎を出し,数枚の葉をつける。葉はリボン状で細長く,長さ 50~100cm,幅 1cm前後,濃緑色で基部は鞘になる。初夏に,細長い緑色の包葉に包まれた花序が葉鞘の内側に生じる。雌花と雄花が交互に2列に並ぶ。花には花被がなく,雄花は1個の葯 (やく) をもつおしべから成り,花粉は糸状。雌花は1本のめしべだけで,熟すると長さ 5mmぐらいの長楕円形の痩果となる。根茎に甘みがあって食べられるのでアマモ,またはアジモの名がある。また葉の形にちなんで「竜宮の乙姫の元結の切外し」という植物名として最も長い名がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報