改訂新版 世界大百科事典 「アメリカムシクイ」の意味・わかりやすい解説
アメリカムシクイ
wood warbler
スズメ目アメリカムシクイ科Parulidaeに属する鳥の総称。約25属113種の優美で活発な小鳥を含み,南・北アメリカおよび西インド諸島の特産である。全長10.5~18cm。羽色はさまざまだが,黄色や橙色や白黒などの際だった模様をもつものが多い。くちばしは一般に細く,その名のように主として昆虫食であるが,果実や花みつも食べる。とくに冬季には食物のかなりの部分が種子などの植物質である。亜寒帯から熱帯まで広く分布する。各種の森林や灌木林に単独かつがいですみ,樹上で餌をあさるが,地上採食のもの(Seiurus属,Oporornis属),樹幹で採食するもの(Mniotilta属),ヒタキ型の採食のもの(Setophaga属,Myioborus属,Wilsonia属)などもある。熱帯の種は留鳥で,雌雄や季節による羽色の変化がほとんどない。一方,北アメリカで繁殖する種は渡り鳥で,多少とも雌雄や夏羽,冬羽で羽色が異なり,雌と冬羽の雄は繁殖期の雄ほど目だった色をしていない。渡りの間はしばしば数種がいっしょになり,小群で行動している。巣は通常わん形で,低い枝の上や灌木の中につくられる。しかし,地上10m以上の樹冠部に営巣するものもあれば,地上に営巣するものもあり,数種は樹洞で繁殖する。熱帯の種の多くは地上または土手につぼ形の巣をつくる。1腹の卵数は,北アメリカでは3~5個(まれに6個),熱帯では2~4個。抱卵は雌だけで行い,一部の種を除いて巣づくりも雌だけでする。雄はテリトリーを防衛し,抱卵中の雌にときどき餌を運ぶ。しかし,雄も育雛(いくすう)には参加する。さえずりは単純で,単音の繰返しが多いが,それぞれの種は特有の鳴声をもっていて,専門家は声だけで種を識別できる。アメリカムシクイ類は北アメリカだけで50種以上もいるうえ,渡りのときには都市の公園などでもごくふつうに見かけるものが多いので,バードウォッチャーにとっては観察のよい対象として親しまれている。なお,旧世界のムシクイ類(ウグイス科)とは類縁が遠いが,アメリカ大陸にはウグイス科がごくわずかしか分布していないので,アメリカムシクイ科がウグイス科の生態的地位を占めるようになったと考えられる。また最近の分類では,ミツドリ類(2属10種)もアメリカムシクイ科に属するといわれている。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報