改訂新版 世界大百科事典 「ヒタキ」の意味・わかりやすい解説
ヒタキ (鶲)
スズメ目ヒタキ科ヒタキ亜科Muscicapinaeの鳥の総称。ヒタキ類の特徴の一つとして,枝に止まっていて,飛んでいるハエやアブなどを見つけると飛びたってつかまえ,またもとの位置に戻る習性がある。したがって,この採食法をしばしば〈ヒタキ型採食法〉と呼ぶ。ヒタキの語源は〈火叩き〉または〈火焚き〉といわれ,ヒタキ類の多くは火打石をたたきあわせる音に似たヒッヒッ,ピッピッ,カタカタという声をよく出すことによる。日本産のヒタキとしてはオオルリ,キビタキ,サメビタキ,コサメビタキ,サンコウチョウが繁殖し,ムギマキとエゾビタキが旅鳥として通過する。これらの鳥は,サンコウチョウが近縁のカササギヒタキ亜科に属するほかすべてヒタキ亜科に属する。
ヒタキ亜科の鳥は約150種あり,旧世界に広く分布するが,新世界にはまったく分布していない。全長10~18cm。羽色はさまざまだが,雄は黄色,赤褐色,青色,白色などの数色を含む比較的はでな色のものが多い。くちばしは一般に扁平で,基部で幅が広く,くちばしのまわりには口ひげと呼ばれる長い剛毛が生えている。口ひげは昆虫をとらえるときに触覚の役を果たし,長い口ひげは捕虫網としても役だつ。脚は短く,地上におりて歩くのには適していない。ほとんどの種が森林または林縁で生活する。巣はふつう木のうろや岩の陰などにつくられるが,コサメビタキは太い横枝の上に,スギゴケや樹皮で形をつくり,表にウメノキゴケなどを張りつけて,木のこぶのように見える巣をつくる。ヨーロッパにもこの亜科の鳥が3種繁殖しており,ともに雄が白色と黒色の2色の姿をしているセグロヒタキとシロエリヒタキは,巣箱をよく利用することで知られている。ヒタキ類の1腹の卵数は2~6個,雌雄交替で抱卵する。
ヒタキ亜科を含むヒタキ科Muscicapidaeは,約1400種もの種からなる鳥類ではいちばん大きな科で,10以上の亜科に分けられている。それらには,ツグミ亜科,チメドリ亜科,ウグイス亜科,ヒタキ亜科などが含まれるが,類縁関係の研究はあまり進んでいない。なお,ヒタキにほぼ相当する英語はflycatcher(ハエをとるもの)であるが,ヒタキ類以外にもこの名で呼ぶものが少なくない。とくに,南北アメリカではスズメ目タイランチョウ科の鳥にflycatcherの名がつく種が多い。また,ヒタキ科ツグミ亜科の鳥のうち,ノビタキ,ルリビタキ,ジョウビタキのように,ヒタキ類によく似たものにもヒタキの名がつけられている。
執筆者:竹下 信雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報