大学事典 「アメリカ大学教授連合」の解説
アメリカ大学教授連合
アメリカだいがくきょうじゅれんごう
1915年,大学での教育研究者の活動条件の改善を目標に発足した,専門分野を超えた自主参加の組織。業績・研究に卓越した867名の教授から出発したが,のちの大学の急増に伴う連合の方針転換を経る中で,会員は1970年代の9万7000名をピークに,2013年までには4万数千名に減少した。しかし,学問の自由の擁護を公称する本組織への期待は依然として強い。
AAUP誕生の直前に,アメリカ経済学会,同政治学会,同社会学会が協力し作成した,学問の自由と教員の身分保障に関する報告が示したごとく,当時の主要な関心は大企業や州政府を批判した社会科学者の一方的な解雇問題にあった。大学教員の身分安定を図り,自立的な学術活動への正当な評価を確保するのがAAUPの目標であった。しかし,初代会長デューイ(John Dewey)のもとでの連合の最終目的は,特権の擁護ではなく,大学の知性の社会への参与を奨励して,思考しつつ行動する市民を育て,民主主義の基を盤石にすることであった。AAUPは,一方では知の理性的な探求という貴族的な使命と,他方では大衆的な民主主義への貢献という使命をあわせ持ち,両者への分裂の危険も孕んでいたのである。
発足時のAAUPが対応した学問の自由に関わる事例の多くでは,大学の教員や学長が,その言動を理由に,理事会,州議会,教会,同窓会などからの強い圧力のもと,正当な手続きを経ずに解雇されていた。連合はこうした事態に対し,同僚を含む専門家による調査に基づく審査の制度化を強く求めた。100年後の今日,AAUPの中核をなす学問の自由委員会(アメリカ)が調査し報告書を作成する事例の多くは,理事会や行政部が経済上の理由を根拠に行う学科の再編や廃止に伴う教員の解雇であり,論点は政治的言動の是非ではなく,教授たちを排除した,教育研究プログラム上の方針決定の手続きに係る。連合はこうした制度面での問題点が判明した大学を譴責リストに載せて修正を求め,牽制している。
連合が団体交渉権を是認した1970年代以降,研究大学(アメリカ大学協会会員校)所属の多数の教育研究者が離脱した。発足から75年の間,会長の9割は研究大学の教授であったが,1980年以降は6割がリベラルアーツ・カレッジを含む他の種類の大学の教授である。大学教授の身分保障は専門的な職務遂行の能力を根拠とし,同僚は保護と同時に審査の対象ともなるという連合の立場からは,団体交渉への躊躇は一つの論理的な帰結である。他方,合衆国の大学では現在,教育活動の実に4分の3を身分保障なしの非常勤ないし期限付き任期の教員が担っている。管理責任者が経済的な浮沈のみを考慮する場合でも,教員たちが仲間の保身だけに献身する場合でも,民主社会の発展に固有の貢献を果たす大学の条件整備は疎かになる。
将来に向けてのAAUPの評価は,教授団の生活の安定と学問のユニークな発展とを両立させる,新たな方策の開拓にかかっている。
著者: 立川明
参考文献: Schrecker, Ellen, The Lost Soul of Higher Education, The New Press, 2010.
参考文献: AAUP, Academe, Vol.75, No.3, May-June 1989.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報