アルカイクスマイル(英語表記)archaic smile

改訂新版 世界大百科事典 「アルカイクスマイル」の意味・わかりやすい解説

アルカイク・スマイル
archaic smile

ギリシアアルカイク彫刻の口もとに見られる微笑に似た表情アーケイックスマイル古式微笑などともいう。初期の彫刻ではあまり目だたないが,前6世紀中ごろから後半にかけての青年像(クーロス)や少女像(コレー)などで特に明瞭となり,厳格様式(ギリシア美術)に移行する前5世紀初めごろからしだいに消える。この微笑の意味については〈ギリシア人の生に対する素朴な喜びの反映〉〈神(像)の人間に対する好意の表現〉〈未熟な彫刻家の偶然に生み出した表情が定型化したもの〉〈微笑のもつ呪術的力に対する古代人の信仰の表れ〉といったさまざまな解釈がなされている。いずれにせよ,この表情が上機嫌陽気,愉快などの心理状態を表す,一般の〈微笑〉でないことは明らかである。おそらく,古代の彫刻家は彫像をただ生命なき冷たい人形のままとどめておくことに飽きたらず,その中に魂を宿し,人間と同じ生命と感情をもった存在たらしめようと考えたと思われる。そしてそれを最もよく表現できる方法として彼らが到達したのが,口端を上方に反らせるこの〈微笑に似た〉表情であったと思われる。ギリシアの影響の強いエトルリアでも,前6世紀の〈ウェイイのアポロン〉や陶棺像などの大型テラコッタ像に,この表情がいっそう誇張された形で表れている。

 東洋では,六朝時代中国飛鳥・白鳳時代日本仏像彫刻の顔に同じような微笑が見られ,これがアルカイク・スマイルと呼ばれることもある。口の両端をかるく引き上げる微笑の形式はギリシアのそれとよく似ているが,両者の間に直接の関係はない。仏像の微笑は,仏の衆生に対する慈悲を表すために,六朝時代の中国で始められたと思われる。北魏の雲岡や竜門の石窟寺院の仏・菩薩像には微笑をたたえたものが少なくない。この六朝風の仏像は朝鮮を媒介として日本に移植され,飛鳥時代の仏像となった。法隆寺の百済観音,救世観音,中宮寺や広隆寺の弥勒菩薩などにもこの微笑が見られる。
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百科事典マイペディア 「アルカイクスマイル」の意味・わかりやすい解説

アルカイク・スマイル

ギリシアのアルカイク美術の彫刻に見られる口辺に現れる微笑に似た表情。人物像に生命感を与えるために生まれた表現であるとされている。親しみと同時に神秘感を与える。中国の六朝時代や日本の飛鳥(あすか)時代の仏像にも認められる。

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世界大百科事典(旧版)内のアルカイクスマイルの言及

【ギリシア美術】より

…初期の彫刻の姿はまだきわめて幼稚・素朴であるが,前6世紀を通じて芸術家の写実的関心は驚くべき速度で高まり,アルカイク後期の作品は非常に正確で有機的に構成された人体表現を示している。またすべての彫刻に共通するアルカイク・スマイルは,当時の芸術家が彫刻に生き生きとした人間的感情を与えようとする努力のあらわれであろう(図1)。アルカイク美術
[厳格様式時代(前500‐前450)]
 ペルシア戦争による緊張した時代を背景に,クラシックにおけるギリシア美術の完成を準備する段階に入った時代をいう。…

※「アルカイクスマイル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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