鮮新世初期の猿人の一種。アフリカのエチオピア,大地溝帯が紅海に続く手前にあるアファール低地,ミドル・アワッシュのアラミスAramisやゴナGonaで,1992-95年にカリフォルニア大学のホワイトT.WhiteとアスフォーB.Asfaw,東京大学の諏訪元たちによって発見された数十点の部分的な化石。ラミダス猿人とも呼ばれる。ピテクスはサルという意味。アファール語でアルディは地面,ラミドゥは根という意味。年代は約440万年前。模式標本は,上下顎歯の他に,後頭骨,側頭骨,上腕骨など(ARA-VP 6/1)。歯はチンパンジーと後の猿人との中間状態で,森で暮らしていたことがわかる。
アラミスからは全身の45%の骨を含む女性個体骨格(アルディArdiという愛称)も発見されていたが,2009年に待望の詳細な研究結果が《サイエンス》に発表され,これまでの初期猿人の概念を根本から覆した。この骨格を構成する化石骨は,もろく,破片に分かれ,歪んでいた。そこで,諏訪たちによってマイクロCT撮影が行われ,コンピュータ・グラフィックス技術を使って各部分を再構成し,本来の形態を復元した。身長は120cm,体重は45~50kgと推定されている。
アメリカのケント州立大学のラブジョイC.O.Lovejoyによると,骨盤の腸骨は,類人猿とは全く違い,アファール猿人(アウストラロピテクス・アファレンシス)と似ていて,基本的に股関節を伸ばして直立二足歩行をしていたことがわかる。しかし,骨盤の坐骨が長い点は,類人猿と似ていて,股関節を曲げた状態で木に登ることにも適応していた。ところが,腕と脚は類人猿のような特徴を示している。まず,腕が脚と同じように長い。手は,親指が短く,他の指が長いので,親指以外の4本の指で枝に引っかけるような運動に適している。足は親指が大きく,他の4本の指と離れていて,握ることに適している。つまり,腕で幹を抱くか,手を枝に引っかけつつ,足は幹に押しつけるか,枝を握るようにして,樹上を移動していたといえる。もちろん,ときには地上に降りて,短距離の直立二足歩行をしたことだろう。チンパンジーやゴリラのようにナックル歩行に適応した特徴は見られない。
頭は小さく,頭蓋腔容積(脳容積より10%ほど大きい)は300~350mlであり,チンパンジーと同じである。顔は,身体の割に小さく,歯も全体的に小さい。諏訪によると,犬歯は退化していて,チンパンジーの状態よりはアウストラロピテクスの状態に近い。それは,外敵を追い払ったり,ボスの座をめぐって戦ったり,メスをめぐってオス同士が争ったりするために,犬歯を武器として使用する必要性が衰えたことを意味している。つまり,オスとメスの犬歯の大きさがあまり違わないので,一夫一婦の関係を築いていた可能性がある。臼歯は小さく,エナメル質が薄いので,果物,キノコ,昆虫,小動物など軟らかい食物を食べていたといえる。森林で暮らしていたことは,一緒に見つかる動物の種類がクドゥというアンテロープやサル,あるいはコウモリであること,また,動物の歯に含まれる酸素や炭素の安定同位体分析によって居住環境が乾燥していなかったことから確かめられている。なお,この化石を研究したグループは,アルディピテクスより古いサヘラントロプスやオロリンはアルディピテクス属に含められると考えている。
→アウストラロピテクス・アファレンシス →猿人 →化石人類 →直立二足歩行 →ナックル歩行
執筆者:馬場 悠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(馬場悠男 国立科学博物館人類研究部長 / 2007年)
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