猿人(読み)えんじん(英語表記)ape-man

精選版 日本国語大辞典 「猿人」の意味・読み・例文・類語

えん‐じん ヱン‥【猿人】

〘名〙 もっとも原始的な化石人類総称アフリカ下部洪積世におけるオーストラロピテクス群、パラントロプス群、ホモ‐ハビリス、アジアにおけるメガントロプス‐パレオジャヴァニクスなど。形態的には類人猿に似るが、大多数の点で人類的な特徴を有し、礫器(れきき)を使用した。

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デジタル大辞泉 「猿人」の意味・読み・例文・類語

えん‐じん〔ヱン‐〕【猿人】

チンパンジーとの共通祖先から分かれた最初期の人類。約700万年前から100万年前ごろまで生息していたとされる。直立二足歩行し、簡単な打製石器を使用した。→化石人類
[補説]サヘラントロプスオロリンアルディピテクスアウストラロピテクスなどが知られる。
[類語]ひと人間人類現生人類原始人新人旧人原人ジャワ原人北京原人直立猿人ピテカントロプスホモサピエンス人倫万物の霊長考えるあし米の虫人物人士じんもの

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「猿人」の意味・わかりやすい解説

猿人
えんじん
ape-man

人類進化を4段階に分けた場合、その最初の段階のものをいう。アウストラロピテクス類がこれに属する。ホモ・ハビリスは猿人と原人の橋渡しをするものと考えられる。19世紀末E・ヘッケルは進化論を信奉し、サルヒトをつなぐものをミッシングリンク(失われた鎖の意)だとみて、これにピテカントロプス(ギリシア語のサルとヒトの合成語で、猿人の意)なる名を与えた。その後、ピテカントロプス・エレクトゥスジャワ原人)やシナントロプス・ペキネンシス(北京(ペキン)原人)などがそれに相当すると考えられ、また、猿人と原人は同義語として取り扱われた。しかし、1945年ごろよりアウストラロピテクス類が再確認され、その研究が進むにつれて、猿人と原人とは段階を異にするものとみなされるに至った。前者にはアウストラロピテクス類、後者にはピテカントロプス類が組み入れられた。また一方、人猿man-apeということばもあり、50年代には、猿人とどちらが適当かということで討議が続けられた。猿人も人猿もヒトとサルの中間的なもので、前者はそのなかでもヒト寄り、後者はサル寄りということになるが、59年、リーキー夫妻によりタンザニアオルドワイ遺跡からジンジャントロプスが粗製の礫石器(れきせっき)を伴って発見されて以来、文化をもつ動物として、最終的に猿人とみなされるに至った。

 猿人に属する化石標本にはいろいろな違いがあるが、すべて直立姿勢(二足歩行)をとっていたことが、骨盤の形態や頭蓋底(とうがいてい)における大後頭孔(だいこうとうこう)の位置から証明されている。したがって、上肢は歩行から解放され、道具を使用するのに十分自由であったと推定されている。また、短縮した犬歯はもはや牙(きば)とはいえない。これらは人類的特徴である。しかし、脳容積は約500ミリリットルで、現生大型類人猿と等しいか多少大きめにすぎない。今日、猿人研究は人類進化を解く鍵(かぎ)とみなされている。

[香原志勢]


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百科事典マイペディア 「猿人」の意味・わかりやすい解説

猿人【えんじん】

原人に先行し,〈サルからヒトへ〉の進化過程の中間段階に相当する人類。かつては原人の旧称であるピテカントロプスの訳として使用されたが,現在はそれ以前の段階のアウストラロピテクス類をさす。→化石人類
→関連項目旧石器時代

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知恵蔵 「猿人」の解説

猿人

アフリカで発見される600万〜130万年前の初期人類で6属に分けられる(ヒト科)。主として、エチオピアから南アフリカに至る大地溝帯の地域で出土する。犬歯は退化していたが、臼歯は大きかった。脳容積は350〜550立方センチで、チンパンジーと大差なかった。直立二足歩行していたが、腕は長く、樹にも頻繁に登った。初期の猿人は森林で暮らしていたが、やがて気候の乾燥化によって拡大した草原に進出、人類発展の契機を作った。雑食性で顔と歯が小さい(巨大ではない)華奢型猿人と、植物食性で顔と歯の巨大な頑丈型猿人があり、華奢型猿人から240万年ほど前にヒト属の人類が発生したと考えられる。猿人は性差が大きく、男は140cmで45kgほど、女は120cmで30kgほどだった。

(馬場悠男 国立科学博物館人類研究部長 / 2007年)

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世界大百科事典 第2版 「猿人」の意味・わかりやすい解説

えんじん【猿人 ape man】

いわゆる〈サルからヒトへ〉の進化過程の中間段階に相当する人類の意。かつては,原人の旧称であるピテカントロプスの訳として,北京猿人とかジャワの直立猿人という形で使われたが(中国では今なおこの用法に従っている),現在はそれより前の段階のアウストラロピテクス類をさして使われ,以下でもこの意味の猿人を取り上げる。
【発見と呼称】
 東アフリカと南アフリカの諸遺跡で多数の化石が発見され,種々の学名が適用されてきた。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「猿人」の解説

猿人(えんじん)
ape-man

従来はアウストラロピテクス類をさし,人類進化における最も原始的な進化段階に相当し,猿人,原人旧人新人の序列の一部をなす。ただし,1990年代にはアウストラロピテクスよりさらに原始的な人類祖先,アルディピテクス・ラミダス(570万~440万年前)などが発見されたが,これらの一部も便宜的にラミダス猿人と呼ばれている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「猿人」の意味・わかりやすい解説

猿人
えんじん
ape-man

アウストラロピテクス類のこと。人類進化にあたり,化石類人猿と原人の間に位置する。最も原初的な人類であり,直立二足歩行を行い,犬歯は短小化していたが,脳の大きさはゴリラ並みであった。きわめて原始的な石器を使っていた。アウストラロピテクス類が人類と認められるまではホモ・エレクトゥス (原人) のことを日本名で猿人と呼んでおり,また中国では現在でもなおそう呼んでいる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「猿人」の解説

猿人
えんじん
Ape-man

更新世(洪積世)前期(200〜100万年前)の人類
アフリカ南部・東部で発見された化石骨アウストラロピテクス群で,類人猿から人類への移行の中間段階にあるため,この称がある。直立歩行し,歯の構造や礫 (れき) 石器の製作など,人類的特徴が明確である。

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世界大百科事典内の猿人の言及

【化石人類】より

…更新世およびそれ以前の化石骨によって知られる人類,すなわち猿人,原人,旧人,新人の総称。化石人類として最初に認められたのは,ドイツのデュッセルドルフに近いネアンデル谷の石灰岩洞窟で1856年に発見されたネアンデルタール人である。…

【化石類人猿】より

…前者は現存のゴリラやチンパンジーへと進化し,後者にはギガントピテクス類やシバピテクス類が含まれる。アウストラロピテクス(猿人)類はむしろ後者のグループに属する。このあたりは,人類の起源や系統を考える上で,もっとも興味深いところである。…

【人類】より

…しかし,全体としてみると,第三紀鮮新世から現在に至る約400万年の間,地球上に生息した人類には,ほぼ連続的な形態変化が認められる。鮮新世と第四紀更新世(洪積世)の古人類は,時代順にアウストラロピテクス群,ピテカントロプスシナントロプス群,ネアンデルタール群,ホモ・サピエンス群に分けられるが,これらはそれぞれ猿人原人旧人新人と呼ばれる人類の進化段階を代表するもので,彼らの文化は狩猟採集を基盤とする旧石器文化であった。
【人類の起源】
 道具の製作や使用が人類のみが享有する能力ではないことが,野生チンパンジーについての観察によって明らかにされた現在でも,道具製作が人類の条件として重視されていることに変りない。…

※「猿人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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