古生代後期のアンガラ植物群Angara floraが分布したウラル地方から沿海州にいたる広大な地域を,南半球のグロッソプテリス植物群で特徴づけられたゴンドワナ大陸と対立させてアンガラ大陸と呼んでいる。先カンブリア時代から古生代前半では両大陸や北アメリカ,ヨーロッパの各大陸が一つの超大陸(パンゲア)を形成していた。テチス海ができローラシア大陸とゴンドワナ大陸とに大きく分かれたのは古生代後半から中生代にかけてであり,古地磁気などの測定から大陸の分裂・移動が推定されている。アンガラ大陸はローラシア大陸の東半である。
アンガラ植物群はクズネツク炭田によく発達するのでクズネツク植物群とも呼ばれる。大葉類のAngaridium,Angaropteridium,イチョウ類に近い形のGinkgophyllum,Rhipidopsis,有節類のRhyllotheca,Paraschizoneuraなどが産出する主要な植物化石である。アンガラ植物群にテチス海をへだてて対立する南半球のゴンドワナ植物群は単葉のグロッソプテリスGlossopteris類が9割も占めて,きびしい気候下に生じたことを示しているが,アンガラ植物群の中の大葉類には単葉がなく,羽状複葉性の植物ばかりで,これは単葉は羽状複葉から環境の悪化が原因して生ずるという原則からみて,ゴンドワナ植物群よりもゆるやかな気候下に生じたことを示している。しかし,ときにアンガラ植物群の中に南半球ゴンドワナ植物群の特徴属であるグロッソプテリスやガンガモプテリスGangamopterisが報告されることがある。これは最初はゴンドワナ大陸から移動したものと考えられていたが,現在では相似た環境は相似た形態の植物を生むという一般原則からみて,移動よりはむしろ平行進化として解釈されている。ゴンドワナ大陸から,赤道帯を占めていたと考えられる同時代の欧米植物群やカタイシア植物群の分布する地域を横断して北半球のアンガラ大陸まで移動することは理論的にも考えにくい。
執筆者:浅間 一男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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