日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンドリッチ」の意味・わかりやすい解説
アンドリッチ
あんどりっち
Ivo Andrić
(1892―1975)
セルビアの作家。ボスニアの零細な手工業職人の家に生まれる。幼くして父を失い、敬虔(けいけん)なカトリック教徒の母の愛に支えられて成長。向学心に燃え、ザグレブ、ウィーン、クラクフの大学で哲学を学んだ。第一次世界大戦中、南スラブ民族解放運動に参加したかどでオーストリア官憲に逮捕され、入獄。この体験から処女詩集『黒海より』(1918)が生まれ、叙情詩人として出発した。1924年以降散文に転じ、短編を得意とした。1923年グラーツ大学よりボスニア史の研究で博士号を受け、その後ユーゴスラビア外務省に入り、第二次世界大戦開始まで西欧諸国で外交官生活を送った。大戦中、ナチ占領下のベオグラードで自宅蟄居(ちっきょ)し、長編小説の執筆に専心した。解放後の1945年、その成果である三部作『ドリナの橋』『ボスニア物語』『サラエボの女』を矢つぎばやに発表し、世界の注目を集めた。続いて『宰相の象』(1948)、『呪(のろ)われた中庭』(1954)を発表し、1961年「自国の歴史の主題と運命を叙述し得た叙事詩的力量」が評価されて、ノーベル文学賞を受賞した。
[栗原成郎]
『松谷健二訳『ドリナの橋』(1966・恒文社)』