電子線ともいい、真空中の電子の流れをさす。もともと真空に近い薄い気体中での放電(真空放電)による陰極からの電子の流れをさしていたが、その後、放電によらなくても、真空中で高温に加熱された陰極から放出される(熱電子放出)電子も陰極線とよばれるようになった。陰極線は気体を電離する能力や種々の物質への蛍光作用、写真乾板の感光などの働きをもち、高電圧で加速するとX線を発生させる。
以上の性質から、陰極線はエレクトロニクスの分野で広く利用されていた。たとえば電子の流れの方向を磁界や電界により自由に変えられるようにして電子の当たる面に蛍光体を塗布した真空管は、ブラウン管とよばれる。ブラウン管は陰極線管の代表として、科学研究や生活に欠かせないものになっていたが、テレビ用や科学研究用オシロスコープは技術進歩により液晶画面などに置き換えられている。一方、X線管はX線によって、医療をはじめ非破壊検査など、種々の物質の透視に用いられる。さらに電子顕微鏡は電子線の電子光学的結像によって、超微小な世界を見ることを可能にしたものである。
[東 忠利 2024年6月18日]
1858年プリュッカーが100万分の1気圧程度の低圧気体中の放電において、陰極に向き合う陽極付近のガラス管壁が蛍光を生じることを発見した。これは謎(なぞ)の放射線とされていたが、その後、ヒットルフやクルックスらによって、それが負電荷をもった粒子の流れであることが確認された。1876年に、この粒子線に陰極線という名を与えたのはE・ゴルトシュタインで、その正体が原子の主要な構成要素である粒子、つまり電子であることがJ・J・トムソンによって推測された。陰極線の発見と解明は原子物理学の発展に大きな貢献をしている。
[東 忠利 2024年6月18日]
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テレビのブラウン管のように真空中で熱陰極と陽極の間に高電圧をかけると,熱陰極から飛び出した電子が陽極に引かれ,偏向板の間を通って蛍光膜に衝突して明るく光る。このような真空放電の際に陰極から発する電子の流れを陰極線と呼ぶ。陰極線の存在は1860年ごろから知られており,陰極から発することからこの名で呼ばれていたが,その正体が明らかになったのは,97年J.J.トムソンが負の電荷を帯びた微粒子の流れであることを確認してからで,これによって電子の存在が初めて知られた。
→電子線
執筆者:細谷 資明
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真空放電において放電管内の気圧を1 Pa 程度に下げた場合,管壁一面に鮮やかな蛍光が見られるのを経験する.この蛍光の機構については1860年ころから多くの学者によって調べられた.その結果,まずそれは陰極から発生した負の電荷をもつ粒子の流れが壁に当たって発生するものであることがわかり,この粒子線を陰極線とよぶようになった.その後,粒子の比電荷(粒子のもつ電荷と質量の比)が測定され,それが電子であることが認められた.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…1881年に学位を取得し,おもに高真空中での電気放電を研究した。ドイツの物理学者プリュッカーJulius Plücker(1801‐68)が発見した陰極から発する放射線に対して陰極線の名を与え,数多くの実験を通してこの線に関するW.クルックスの説を批判した。さらに86年には,穴をあけた陰極を使用することによって,陰極線とは反対方向に穴をつき抜ける放射線があることを見いだし,陽極線の一種であるこの線にカナル線canal raysの名を与えた。…
…しかし,95年にドイツでW.C.レントゲンがX線を発見し,X線が気体を導電性にすることが明らかになると,X線装置を使用して,トムソンの下でニュージーランドからのE.ラザフォードらを加えて,気体中の電気伝導の研究が進展した。一方,陰極線によってX線が発生させられることから,X線の発見は,陰極線の研究を刺激した。H.ヘルツ,E.ゴルトシュタインらドイツの物理学者たちは,陰極線は電磁波だと主張していたが,トムソンは,陰極線が負の荷電粒子であるとする立場から研究を進め,陰極線の磁気スペクトルが物質の種類によらず同一になることや,磁場中では陰極線と気体放電のふるまいに違いが生ずることなどを明らかにした。…
※「陰極線」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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