イオン液体(読み)イオンエキタイ

デジタル大辞泉 「イオン液体」の意味・読み・例文・類語

イオン‐えきたい【イオン液体】

およそセ氏100度以下で液体として存在するえん。水などの溶媒を含まず、イオンのみからなる液体。静電相互作用が強い塩化ナトリウム食塩)などは通常、常温近くでは結晶となり固相を呈するが、有機イオンの一部は静電相互作用が弱く、常温でも液相を呈する場合がある。イオン性液体常温溶融塩低融点溶融塩室温溶融塩

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化学辞典 第2版 「イオン液体」の解説

イオン液体
イオンエキタイ
ionic liquid

室温付近においてイオンだけから構成されている液体.塩化ナトリウム(融点801 ℃)のような簡単な陽イオンと陰イオンからなる系は高温でなければ液体(溶融塩)にならないが,複雑な構造をもつ有機化合物の陽イオンと適当な陰イオンからなる系が,室温において安定な液体として存在することが最近多数発見され,その特殊な物性から爆発的に研究が進展している.現在,その主役になっているのは不均等な二つのアルキル基をもつイミダゾリウム塩である.図に代表的なエチルメチルイミダゾリウム塩を示す.

陰イオン X として Br を用いると塩は固体結晶になるが,BF4PF6,(CF3SO2)2Nなどの陰イオンでは液体になる.最後の複雑な陰イオンとの組合せでは,水を加えてもイオン液体相と水相とに分離して水相に溶け出すことはない.また,陽イオンとして1-ブチル-3-メチル-イミダゾリウムカチオン,陰イオンとして塩化鉄(Ⅲ)イオンを用いると,磁石に引きつけられる液体になることが示されている.

このように,液体としてはいままで見られなかった物性が観測され,二次電池の不揮発性電解液としての可能性や,水,有機溶媒につぐ第三の溶媒としての実用性の研究が進められている.アルキル基をもつイミダゾリウム塩では,その構造からわかるように,側鎖にいろいろな置換基を加えることができる.たとえば,各種のアミノ酸を結合させたイオン液体もつくられている.また,これまでタンパク質の物性は,有機溶媒中では変性を起こしてしまって研究できなかったが,イオン液体溶液として研究できる可能性もある.アメリカには,急増するイオン液体の情報に対応してデータベース(http://ilthermo.boulder.nist.gov)がつくられている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

知恵蔵 「イオン液体」の解説

イオン液体

室温で固体の食塩(NaCl)は、ナトリウム陽イオン(Na^+)と塩化物陰イオン(Cl^-)からなる結晶であり、800℃以上の高温にしなければ液体にならない。しかし、イオンだけでできている有機物の塩(えん)の中には室温で液状を保つものもある。室温で液体である塩のことをイオン液体と呼ぶ。陽イオンとしては非対称な形をしたイミダゾリウム、ピリジニウムなどのアンモニウム系の有機物と、陰イオンとしてフッ素を含むイオン(BF(4)^-、PF(6)^-、CF(3)SO(3)^-など)を混ぜ合わせると液体状の塩ができやすい。この液状塩は、結晶化しにくいイオンから構成されており、粘性があるトロトロした液体である。さらに、イオン液体はほとんど蒸気圧をもたないため、揮発しないし、燃えにくいので、環境に飛散することがなく、耐熱性があり、電気を通しやすい、といった有用な性質をもつ。また、イオン液体の中には、水にも有機溶媒にも溶けずに相分離を起こすことがある。そのため、イオン液体は水でもなく有機溶媒でもない新しい反応溶媒として幅広い分野への応用が期待されている。これらの特性から、環境に優しいグリーンケミストリー対応の溶媒としての用途が期待され、一部実用化されている。例えば、蓄電装置(キャパシター)の電解液にイオン液体を利用し、高電圧で動作できる高性能の機能をもった製品が開発されている。また、化学品を量産する際の副産物を固体ではなくイオン液体として除去することで生産性を飛躍的に高めた企業もある。さらにリチウムイオン電池の電解液を可燃性の有機溶媒からイオン液体に代替できれば、安全性を高めることができるはずである。

(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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