改訂新版 世界大百科事典 「エネルギーの流れ」の意味・わかりやすい解説
エネルギーの流れ (エネルギーのながれ)
energy flow
生態系においては,その構成各要素間にさまざまな物質の受渡しがあり,それに伴ってエネルギーの変換,移動がある。前者を物質循環と呼ぶのに対し,後者をエネルギーの流れと呼ぶ。すべての生命活動にはエネルギーの供給が不可欠であるが,このエネルギーの究極的な供給源は太陽の核融合反応であり,光エネルギーとして地表に送られてくる。光エネルギーを直接生活に利用できるのは光合成能をもつ緑色植物と一部の細菌(光合成細菌)だけである。光合成生物は光エネルギーを吸収し,無機物から有機物(植物体)を合成し,化学エネルギーとして固定するので生態系における生産者と位置づけられる。地表に到達する光エネルギーのうち,化学エネルギーとして蓄積される部分は,よく発達した植物群落でも1%弱にすぎないと推定されている。われわれ人間を含めて光合成能をもたない非光合成生物は,植物体に蓄積された化学エネルギーを食物連鎖の過程を通じて順次,変換・消費して生活する。これらは消費者(1次,2次,……,n次)および分解者と位置づけられる。成長,増殖,運動などの仕事に使われたエネルギーの一部は生物体として蓄積されるが,最終的には熱エネルギーの形で再び宇宙に放散される。この状態では生物にとってもはや利用できないエネルギーであり,生態系からは失われたものとなる。生産者から1次消費者,1次消費者から2次消費者,……という食物連鎖の各段階ごとに失われるエネルギーの比率はしばしば90%にも達する。したがって,エネルギーの流れは,その経路が長くなると熱エネルギーとして系から失われる部分が増加し,流れは急速に減少しついには消滅する。すなわちエネルギーの流れは物質のように循環することなく,一方的な流れである。生態系の研究では,この物質循環とエネルギーの流れをその主要な機能としてとらえることが有力な方法となっている。
執筆者:林 秀剛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報