植生のうちで相観や種組成でなんらかの均質さがあり,生態学的な類型化ができるような植物の集団を指すが,単にある地域に生育する植物の集団という意味で植生と同義に用いられる場合もある。単一の植物からなるものを純群落という。群落はcommunityの訳で,かつては共同体と訳された。現在,動物や動植物をあわせた生物の場合には群集という語が用いられているが,植物の場合は群落が慣用されている。
どういう種類の植物から群落が構成されているかを種組成という。植物群落が種組成から見てどのようなまとまりを示すかについては二つの対照的な考え方がある。一つは,北ヨーロッパを中心に発展した植物社会学の考え方で,群落は一定の種組成を示すとみる。これは群落の不連続性を認めるので植生単位説といわれている。もう一つは,アメリカのカーティスJ.T.CurtisとホイッタカーR.H.Whittakerに代表されるもので,植物群落は環境に適して分布するそれぞれの種の重なりとしてあらわされるので,環境に不連続がないかぎり植物群落には切れめがないとする植生連続説である。
植物群落の種多様性は群落により大きく異なる。東シベリア内陸部の亜寒帯には,ダフリアカラマツの純群落に近い単純な組成の林が広大な面積を占めている。一方,熱帯に広がる多雨林は非常に多様で,マレー半島中部での調査報告によると,10haの面積に,胸の高さでの直径(胸高直径)が10cm以上になる樹木が5907本あり,その種類数は473種に及ぶ。一般に植物群落の種多様性は寒帯から熱帯に向かって増加し,熱帯多雨林では特別に高くなる。なぜこのように高い種多様性があらわれるかについてはいくつかの仮説が出されているが,今のところ十分には説明されていない。
植物群落は形や構造をもつ。相観は主として群落優占種の生活形によって決まるので環境と密接な関係があり,植物群落の類別に用いられる。森林などでは高さの違う植物からなる群落内の葉の分布に,垂直的に何層かの密な層を生じているように見える場合が多い。これを階層構造stratificationという。一般に高木層,低木層,草本層,蘚苔(せんたい)層に分けられるが,階層が何層になるかとか,どれだけはっきり区別できるかどうかは森林によって異なり,熱帯多雨林において最も階層構造が発達する。
植物群落では,植物の生存にとって不可欠な光が高さとともに低減するので,光をめぐる植物間の高さの関係が重要になる。それを知るために考案されたのが門司正三と佐伯敏郎による生産構造図で,植物群落の光合成器官(葉)と非光合成器官(枝,茎)の重さをある高さごとの層別に種を区別してあらわしたものである。物質生産を担う葉の植物群落での空間分布(生産構造)は生産構造図で示せば垂直構造としてよく表される。ヨシとナガボノシロワレモコウの混じった河原の群落で,生産構造図の季節変化には,春先に早く生長するナガボノシロワレモコウがはじめ優占するが,生長の時期は遅いが高くなるヨシがしだいに圧倒していくという姿が描かれている。草原のように背の低い群落においても,どのような生産構造をとるかは重要である。
植物群落の光をめぐる関係は群落の密度にも影響する。若い群落が発達するにつれて弱小(被圧)個体が枯死し,群落の密度が低下する現象は,雑草群落でも森林でもしばしば観察される。この現象は自然間引きself-thinningと呼ばれる。自然間引きが進行している純群落では,個体密度ρと平均個体重WにWρ3/2=定数という関係が成立することが吉良竜夫らによって経験的に見いだされた。これは自然間引きの2分の3乗則といわれ,次の二つの仮定からも数学的に導かれる。(1)個体の大きさ・年齢に関係なく,同種の植物はつねに相似形で比重が等しい。(2)個体の占有面積は生長とともに大きくなるが,群落は常に鬱閉(うつぺい)し,被度が100%を保つように個体密度が調整される。自然群落では純群落は少なくこの法則はそのままは成り立ちにくいが,間引きによる密度の調整が,種による生長速度・耐陰性の差,林冠に存在する空所の存在などとも作用しあって,階層構造などの群落構造をつくり上げている。
自然状態で安定な植物群落を極相という。湿潤な日本の極相は森林であり,昔から手つかずで残されてきた極相の森林を原生林(原始林),雑木林のように人手が加わってできた森林を二次林,造林された林を人工林という。森林の国日本において原生林に近い天然林は少なくなり,とくに照葉樹林は社寺林程度しか残されていない。森林に限らず自然度の高い群落を保護するためには,人手を加えず放置するのが何よりである。一方,ススキ草原,アカマツ林,高層湿原など遷移の途中相の植物群落を保護するためには,樹木の伐採,下刈り,流入水の保全などの遷移を進行させない管理が必要である。
→生物群集
執筆者:藤田 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…陸上に生育している植物の集団を漠然とさす語であるが,大地を被覆する植物の集まりというような意味あいで用いられる。なんらかの生態学的基準によって類型化された植生は植物群落と呼ばれる。
[植生の機能]
植生は生態系における一次生産者として,地球上の生命に欠くことのできないエネルギーや物質を生みだしているが,それと同時に植生の存在は地球上の気候環境にも大きく影響している。…
…植物群落を外観的にとらえた様相。単なる景観ではなく,植物群落の形・構造を反映したもの。…
※「植物群落」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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