ドイツの詩人、評論家。バイエルンの生まれ。第二次世界大戦末、民族突撃隊の少年兵として敗戦を迎え、通訳などで生計をたてながら大学では文学を専攻。卒論ではブレンターノの詩法を論じた。『狼(おおかみ)たちの擁護』(1957)、『くにのことば』(1960)など数冊の詩集により、強烈な政治的批判を内に秘めた鋭い言語感覚の詩人として出発したが、同時に犀利(さいり)な社会批判的評論も発表した。『細目』(1962)、『政治と犯罪』(1964)など、いずれも詩人としての感性が現代社会の不正に敏感に反発するところに生じた評論集といってよく、1960年代末以降、既成左翼の固定観念を脱した新しいタイプの、いわゆる新左翼系急進的知識人の典型と目されるに至る。日本ではとくに著名な『意識産業論』(1962)は、「意識の搾取」を本質とする現代の知的産業全般を、自己批判を込めて論じたエッセイとして鋭い。1963年のビュヒナー賞ほか数多くの文学賞を受賞。1965年以降、雑誌『時刻表』を創刊編集。自らも誌上で時局的諸問題について健筆を振るう。この間キューバなど世界各地を訪れ、1973年(昭和48)には来日した。この時期『ハバナの審問』(1970)、『スペインの短い夏』(1972)など、ドキュメンタルな作品もある。過去600年にわたる「進歩」が含む問題への反省を基本的主題に据えたバラード集『霊廟(れいびょう)』(1975)や、長編詩『タイタニック沈没』(1978)、ディドロを主人公にして知識人という存在の問題性を喜劇の形式で描いた戯曲『人間好き』(1984)など、1970年代後半以降の作品では初期の評論のような社会批判的舌鋒(ぜっぽう)の鋭さは薄れたきらいはあるが、斬新(ざんしん)な視覚と才筆ぶりは健在であった。ほかに長編ルポルタージュ『ああ、ヨーロッパ!』(1987。邦訳『ヨーロッパ半島』)など。1985年にはハインリヒ・ベル賞を受賞した。
[青木順三]
『野村修訳『政治と犯罪』(1966・晶文社)』▽『石黒英男訳『意識産業』(1970・晶文社)』▽『野村修訳『スペインの短い夏』(1977・晶文社)』▽『野村修訳『霊廟――進歩の歴史からの37篇のバラード』(1983・晶文社)』▽『野村修訳『タイタニック沈没』(1983・晶文社)』▽『野村修訳『人間好き――ディドロについての対話』(1987・晶文社)』▽『石黒英男・小寺昭次郎他訳『ヨーロッパ半島』(1989・晶文社)』▽『野村修訳『冷戦から内戦へ』(1994・晶文社)』▽『丘沢静他訳『数の悪魔――算数・数学が楽しくなる12夜』(1998・晶文社)』▽『川西美沙訳『「愛」の悪魔』(2001・晶文社)』▽『丘沢静也訳『ロバートは歴史の天使』(2001・晶文社)』
ドイツの詩人,批評家。民族突撃隊に動員された15歳の少年として敗戦を迎え,通訳などで生計を立てながら大学では文学を専攻。卒業論文はブレンターノの詩法を論じたもの。《狼たちの擁護》(1957)など数冊の詩集により,強烈な政治的批判を内に秘めた鋭い言語感覚の詩人として文学的出発をしたが,やがて《個々のもの》(1962),《政治と犯罪》(1964)など犀利な社会批判的評論によって既成左翼の教条主義を痛撃する新しいタイプの急進的知識人の典型と目されるにいたる。日本では《意識産業論》(1962)が特に著名。1965年以降,雑誌《時刻表Kursbuch》を創刊,編集。みずからも文学や社会,政治等の時局的諸問題について斬新な視角から誌上で健筆を振るう。この間ヨーロッパ各地やアメリカ,キューバなどを訪れ,73年には来日してメディア論等について講演会やシンポジウムを催し,多くの知的刺激を与えた。《ハバナの審問》(1970),《アナーキーの短い夏》(1972)等ドキュメンタルな作品もある。近年の詩集《霊廟》(1975)や《タイタニック号の沈没》(1978)では,作品の完成度は高いがかつての社会批判的舌鋒の鋭さは薄れている。しばしばブレヒトの後継者に擬せられる彼の特質は,詩人としての感性が現代社会の不正に鋭敏に反発するところにある。言葉の批判が社会批評の有力な武器になりうることを示した《シュピーゲルの言葉》(1957)はその好例であろう。
執筆者:青木 順三
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…英語ではnew media,newmediaの両表記を使うが,日本語では〈ニュー・メディア〉から次第に〈ニューメディア〉の表記になった。ディジタル信号による新しい電子メディアの意味でこの語を最初に用いたのは,H.M.エンツェンスベルガーが早い。彼は,〈メディア論のための積木箱〉(《Kursbuch》1970年3月号)のなかで,〈neue Medien〉という言葉に特別の意味を込めた。…
※「エンツェンスベルガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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